第14話 殺し屋さん、護衛をしてよ!
「うぅーん」
今度はヴィクトリアは腕を組み、唸りながら知恵を絞った。自分を狙った殺し屋さんであるという奇妙な縁だが、自分の命を救ってくれたという縁もある。幸せになってもらいたい、と言うと大袈裟だが、少しでも自分の思うように生きて欲しい。
「そうか……! ぴったりの仕事があるわよ」
ヴィクトリアはぱちんと指を鳴らした。
「……私の護衛ってどう? 実は不安なのよね、だって、あなたを雇って私を殺そうとした人がどこかに居るんでしょう? これからだって狙われる可能性があるわけで……」
「自分の身分を忘れているようだが、お前は王女なんだぞ? 衛兵でも騎士でも、お前の護衛についてくれるだろう?」
「そんなよくも知らない人たち信用できないわよ。いつ、誰に雇われて私を狙いに来るか分からないもの」
「それは疑り深すぎないか、と言いたいところが、まあ、王城ではそのくらい警戒する方がいいかもしれないな」
「あなただったら信用できる」
はっきりと言い切ると、殺し屋さんは面食らったような顔となった。それから、まるで子供のように、なにかを面白がるような笑みをこぼす。
それは、ヴィクトリアの命を助けたときの笑みに似ていた。
「確かに、王女なんてこれ以上ない金づるだ」
「そうでしょう? 私だってそう思うもの! それに、殺し屋よりも警護の方が気分がいいでしょう?」
「気分……そうだな。まったく、本当にお前はおかしな奴だな」
「よく言われるわ。でもそれは私が高貴な血筋の特別な娘だったからなんだわ。やっぱり生まれつき人とは違うと思っていたのよねぇ」
そう言って腰に手を当てて、悦に入ったように頷くのを見て、
「ほんっ、とうに、ひと言多いなお前は」
殺し屋さんは、今まで見たことがなかったような柔らかな表情で笑った。
それを見て、かつて失ってしまった友人を思い出す。本当にひとりよがりも甚だしいとは自分で知っているのだが、少し報われたような気がした。
「じゃあ、名前を教えてよ殺し屋さん」
「名前?」
「そうよ、名前。やっぱり別の名前で呼ぶのはなんだかへんてこな感じがするし」
殺し屋さんは少し迷ったように瞳を泳がせてから、
「ユアン……」
「ユアンね、分かったわ! じゃあ、これからそう呼ぶことにするわ」
(また偽名かもしれなけれど、まあいっか!)
そうして殺し屋さんことユアンは、ヴィクトリアの護衛になったのだった。




