第13話 晩餐を終えて
部屋に帰るとただ食事をして話しただけなのにくたくたで、そのままベッドに突っ伏してしまった。
すると侍女が三人くらいやって来て、こんな格好で横になるなんてはしたない、とかなんとか言いながら着替えさせてくれた。晩餐はどうでしたか、と聞かれたが、疲れているから今度話すと言うと素直に引き下がり、部屋から出て行った。
「陛下は明日の朝食もご一緒にしたいそうです。お支度がありますので明日は早くに起こしに参ります。もうお休みなさいませ」
そう言い残された言葉に、今日もあんなに話したのに明日もかよ、とは思ったが不思議に不快ではなかったし、気負いもなかった。あの父親……パパとだったら上手くやっていけると思っているからかもしれない。
支度、というのが気になるが、早起きには慣れているのでまあいいかという気持ちだ。
そうして再びベッドに横になり、うつらうつらとし始めた時だった。
「父親との再会はどうだった?」
「こんな夜中に密かに人の部屋に侵入するのはやめて。って、殺し屋さんにそんなこと言っても無駄かあ」
体を起こし、声がした窓際へと視線を向けた。そこには、黒い脚衣に黒いシャツという、全身真っ黒でちょっとセクシー度を増した殺し屋さんこと、ロジェ(仮名)が立っていた。
「どうももなにも、想像していたのと全然違っていたので驚いたわ。父親としても、国王としても」
「そうだったのか? どんなふうに?」
「どんなって言われても。だって、あんな頼りなさそうな人が国王だなんて」
「そうなのか? 国王として頼りないという評判は聞いたことがないがな」
「え? そうなの? でも、宰相だった叔父さんの言いなりだったみたいだし」
「言いなりというふうに捉えている者は少ないと思う。あの頑固者で自分の意見を絶対に曲げない宰相と折り合いをつけて上手くやっていた」
「そうなのね。見た目よりも切れ者なのね」
では、今晩のあれは素を出していたということなのだろうか。それとも、あれが演技でヴィクトリアを安心させるためだったのだろうか。どちらにしても、なかなかの策士なのかもしれない。
「私の前では、私にメロメロって感じだったけれど」
「そこに嘘はないと思うが。もうすぐ一人娘に会えると心待ちにしていると盛んに言っていたようだからな」
「……。そうなのね」
その結果自分は殺し屋さんに狙われる羽目になったのか、と思うと、こう、周囲には秘密裏に話を進めて、警備が行き届くだろう王城に連れて来てから周囲に明かすことはできなかったのだろうかと思う。
「じゃあ、母さんに操を立てるつもりだったのかなんだか分からないけれど、私の他に子供をもうけなかったっていうのも本当なのかしら? 国王としては大失格じゃない?」
「そのように話したのか。その辺りの詳しいところは分からないが、お前の母親を王城から追った皇太后や宰相たちに対する反抗心はあったように思えるな」
「いやいやいやいや、そんなことでいいの?」
「いいのかどうかは分からないが、事実そうなのだ」
それにしても殺し屋さんは王城内のこと、王族に詳しいようだ。どうやら定まった雇い主がいるわけではないようだが、王城にいるような高級貴族の仕事を多く請け負っているのだろうか。
「この分だと、あなたに支払うお金もさっさと準備できそうだわ」
「それは結構なことだな」
「そのお金で……ねぇ、殺し屋なんてことはやめたらどう?」
「は……?」
ヴィクトリアの言葉が思ってもいないものだったのか、そしてその内容に呆れたのか、殺し屋さんは白けたような視線を送ってきた。




