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霊界のラストゲーム  作者: 碓氷尊
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第二話 街のルール


「一つ聞かせてくれる?」


 案内された建物に入ると、眼鏡を掛け、一切汚れのない白衣を羽織った男が、口を開いた。

 整えられていない髪型は茶色を帯びていて、三十代くらいの年の頃。敬語がなかったのも、その年のせいだろう。ここにいる人々の中では最年長のように思えた。


「ここってどこ?どうしても日本には思えないんだけど」


 少し面倒くさそうでダルそうな口調。

 その言い草からも、この男には緊張感という言葉が似合わない。


 ここに案内してくれた青年は、無表情のまま口を開く。


「まず自己紹介をさせてくれ。俺は、久我(くが)慎也(しんや)。年は二十一。ここに来る前は大学生だった」


 簡単にただ単語を並べただけのような自己紹介。

 しかし、暁は自分と年が近いことに気付き、不思議と親近感を抱いた。


「今から詳しいことを話すが、普通に考えないでくれ。頭の固い奴には、少し難しい話になるかもしれないが、ここは日本でも外国でもない。ここにある俺達の肉体も本物ではない。薄々気付いている者もいるとは思うが……」


 慎也にそう言われると、暁は最初に考えたことを思い出した。


 俺は死んだはずなのだ。


「俺達は一度死んだ人間だ」


 改めて慎也の口から言われると、わかってはいながらも改めて驚いてしまう。本当にそんな話があるのか、と。簡単に呑み込める話の内容ではなかった。


「死んでんなら、なんでアタシらここにいんの?」


 また別の者が言った。

 前髪を七三くらいに分けたボブカットの女性だった。腕を組み、大きな態度で慎也に聞く。


「その日に死んだ人間の意識をランダムでここに送り、とあるゲームを行うためだ。最初はあの仮面の男も詳しく説明してくれたんだが。最近は、あんな風に簡単な話しかしない。だから代わりに、というわけでもないが俺が勝手に説明役を買って出ている」


 それは恐らく、宙に浮いていた仮面の男のことだろう。


「俺がここに来たときはもう少し詳しい話をされた」


 慎也の口ぶりからするに、慎也は暁達と共にここに来たわけではないのだ。しばらくの間、ここに居続けている。だから、こんなにも服装や表情に違いがあるのだ。古参の人と新参者との違いが。


「ゲームって何?死んでまでやらされるゲームとか」


 態度の大きい女性は再度聞く。


「もう一度生き返るためのゲーム。ここに集められた人間には一定の条件がある。自殺者でないことと、年齢が十代後半から三十代前半であること。でないと、生への執着がないからだ。最初の男が言った〝この街を抜け出す〟っていう話。この街を抜ければ、ここでの記憶をなくし、死んだということすらなかったことになって生前通りの生活を送れる」


 それを聞いて聞いた女性は大きな反応を見せた。

 他の者も肩を揺らすなど、多少の反応を見せるが、慎也からはこの街の脱出を、あまり勧められているような雰囲気を感じない。


「それがあの仮面の男が言っていた俺たちが最も望むこと……」


 暁は、仮面の男が告げた言葉を思い出し、小さく呟いた。

 慎也の言うように、ここに自殺者がいないようならば、皆生き返りたいはずだ。

 なのに、そのように慎也が目を逸らす理由はなんなのだろうか。


「俺がここに来たときも、俺が来るずっと前からいる者たちがいた。だが、一番古株の奴に聞いてもここから抜け出して無事生き返れた奴は一人としていないらしい」


 確かに街の大きさは五キロと仮面の男は言っていた。

 多少の苦労は予想しながらも、そんなに難しいことのようには感じない。


「それは、どうして?」


 先ほどまでは気が動転していたこともあり、応答すらできない状態であったが、慎也が仮面の男よりもずっとまともに見えて、暁は遂に口を開いた。


「ここで死ぬと、二度と生き返ることはない。このゲームへの参加権自体がなくなり、意識が消滅する」


 わかりやすく説明してくれたのだと思う。恐怖を煽らない程度に。

 それでも慎也の気遣いにあまり効果はなく、はっきりとした現実を突きつけられる。


 つまりここで死ぬようなことがあれば、本当にそれでおしまい。

 死ぬということだ。


「ここで死ぬようなことがあるってこと?」


 暁が続けて聞くと、慎也は暁と目を合わせ、はっきりと確かに頷いた。


「神々がこの街を囲っていると言っただろう。本当の神かどうかは知らない。だが、人間のような考えを持っていることはない。抜け出そうとする者を、ゴミを潰すような感覚で殺していくからな。このゲームの成功者がいないのもそのせいだ。神々が大声で笑いながら、抜け出そうとするものをゲーム感覚で、殺していく」


 繰り返された言葉。

 緊張感という言葉が似合わないあの男にも、緊張が走っただろう。


「だが、ここから抜け出そうとする者を、俺は止めたりはしない。ただ俺の知っている情報は全て話しておく。それだけだ」


 これだけの話を、慎也は無表情で七人に話した。

 その七人の中に、さすがに笑い話だと笑い飛ばす者はいなかった。

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