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霊界のラストゲーム  作者: 碓氷尊
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第一話 見知らぬ土地

 覚えているのは体を焼き尽くすような痛みと今まで感じたことのないほどの恐怖だった。

 一呼吸するごとに喉を焼くような痛みが襲う。そして、鼻につくガソリンの匂い。身体の感覚はほとんどなくて、視界もぼんやりとして、ほとんど記憶がない。覚えているのは、大切な弟が自身と同じように横たわる姿。何度も弟に向かって謝るが、喉に蓋でもされたかのように声が出ない。血だらけで動かなくなった弟の姿を見て、彼は目尻から一粒の涙を流し、そのまま意識を失った。


 次に目が覚めたとき、その目に写った光景に彼は言葉を失った。

 見知らぬ土地に、彼は立っていた。

 明るい茶色の土の上に立つ自分。その土は、水分を一切含んでいない干からびた土であった。ここは日本だろうか、と疑うほどの環境。まるで乾燥地帯。上空からはオレンジ色の光が差していた。しかし、夜のような空とは不釣り合いで、夢でも見ているようだった。

 彼は、見渡せる限りの周囲の状況を確認する。

 錆びた倉のような建物が、舗装されていない道を軸として、いくつも並んでいた。その建物はどれも一階建で、寂し気な印象を受けた。テレビなどでしか見たことのないような荒地ともいえる場所。


 この渇いた土地はなんだ。

 何故自分はここにいる。

 彼は短い時間でいくつもの疑問を自分自身に投げかけた。


(あきら)?」


 彼は、自身の名を呼ぶ声に反応し、声の聞こえた背後を振り返る。

 そこには先ほどまではいなかった弟、(すばる)の姿があった。いや、もしかしたら最初からここにいて、戸惑っていた自分が気付かなかっただけなのかもしれないと、改めて我に返る。

 視野を広げて見れば、そこには自分と昴の姿だけではなく、複数の男女の姿があった。

 現状は理解できないままだが、謎の安心感が彼、暁を包む。


「何、ここ……」


 昴も暁と同じで、状況が全く理解できていないようだった。


 それもそのはず。

 暁と昴は、つい先ほど死んだはずであったのだから。


「初めまして、皆様!」


 トーンの高い声が暁たちのいる上から聞こえた。

 その場にいる者たちは、聞こえた上空へと顔を上げる。

 強めの日差しが照り付けているが、やはり自然のものと思えない不思議な感覚を暁は感じた。


「状況を全く理解されていないという表情。実に結構です!」


 声のした上空には、この土地に全く似合わぬマジシャンのような容姿をした小男がいた。その小男は、表現の通り、宙に浮いている。小さなその顔にモノクロのダイヤ柄の仮面をつけていて、表情は口元の笑っている様子しかわからず、目元の僅かな隙間も大きなシルクハットで影となり、その表情を読み取ることは困難であった。

 ただ、楽しそうな口調と、笑みを浮かべた口元だけが見えている。


「私が今から、ここでの簡単なルールを説明いたします。一度しか言わないのでよぉく聞いておいてください。と言っても実にシンプルなルールでございます!この街は直径約五キロメートルほどの街となっております。その〝アナタ方〟の街を囲うのは、娯楽を求める神々でございます。云わば、ここは一つのステージ!アナタ方は、ただこの街から抜け出せば良いのです。実に簡単でしょう?」


 今からゲームでも始まるかの物言い。

 だが、もちろん誰一人としてその言葉を聞いて、素直に頷く者はいなかった。


「ここから脱出できた暁には今のアナタ方が最も望む願いを叶えて差し上げます!期限などは一切ございません!作戦でも何でもじっくりとお考え下さい」


 暁は思う。

 夢か。死ぬときまで人は夢を見るのか、と。

 そのせいなのか、その仮面の男に何かを問いかけるなんてことをしようとも思わなかった。


「さて、そろそろ私は退散しようと思いますが。質問などはございませんか?」


 仮面の男は変わらぬ調子で聞くが、誰も動きを見せない。

 動くなと言われているわけではないのに、神経から命令されているような気がして動けないのだ。


「暁、これ夢か何か?」


 そんな中、弟の昴だけは動けていた。

 暁の近くでボソリと呟く。そのおかげで暁の固まっていた全身の筋肉の緊張が解かれた。


「だと思うけど」

「……変な夢」


 二人の短いやり取りに気が付いた仮面の男は、すかさず反応を見せる。


「おや、お二人はお知り合いで?」


 指摘されると、他人と話すのが苦手な昴はぐっと口を結んで黙り込む。

 代わりに暁が答えた。


「弟だ」

「なんと!それは珍しい。お知り合いの方がくるだけでも珍しいのに。まさか身内だなんて。それはさぞ心強いことでしょう」


 一人頷く仮面の男。青年はそれ以上何も言わなかった。


「ああ、それと。これは夢ではありませんよ。それだけは悪しからず」


 暁と同じく、昴の言葉に反応したのだろう。

 僅かながら動揺を見せる者が、少数ではあったがいた。


「ふぅ、説明はこれで一通り終わりました。あとは、まあ、ここの先輩にでも聞いてください。それでは皆様、良い余生をお過ごしください」


 そう言って一瞬にして、その場から消えた仮面の男。

 佇む七人の男女。

 疑問だけが、彼らの中に残っていた。


 どうすればいい。

 このあと、自分達はどう動いて何をすればよいのかが全くわからなかった。

 恐らく他の者もそうだろう。あの仮面の男の説明だけでは、全くもって理解ができない。

 暁は今、ここにいる者達を横目で見る。

 やはり誰も動かない。


「……俺が説明する」


 思考がショート寸前の中、その場に残された七人に話しかけた人物がいた。

 白い長袖のブイネックのシャツに黒いスキニータイプのズボンを穿いた二十代くらいの男。その服には、薄汚さが滲み出ていて、ここでの生活を感じさせられた。


「ついてきてくれ」


 強張っていた体をゆっくりと動かす七人の男女。

 その男に招かれるまま、七人は近くの建物まで移動した。

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