1、開始
パニック系が書きたくなりまして
気が付いて視界に入ったのは見知らぬ場所。
何の施設か分からないが、倉庫の中の様だ。
誘拐でもされたのだろうか。手足は縛られてなかったので体を起こしす。どうやって連れてこられたのだろうか。
周囲を見渡すと自分以外にも人が居た。それも複数人。起きている人、まだ寝ているのか、気を失っている人。
「あ、あのっ」
自分の近くで、壁にもたれて座っていた男性に声を掛けようとしたところ、その男性は私の後ろを指差した。
振り替えり、男性が指差した対象を確認する。
そこには夥しい本数の、ロープの様なものが壁一面に垂れ下がっていた。
私はようやく認識した。
そのロープが吊られている先を。
その遥かなる天井を。
頂の見えぬ、空間を。
薄明かりということもあるが、天井がどうなっているのか全く見えない。
もう一度周囲を見渡す。
天井は見えないが周囲の壁は、全て見えた。
脱出出来そうな扉は無い。
壁にもたれている男に視線を戻す。
「こっから出るには、登るしかねぇぜ。けど……な、ロープだけじゃなくてもっと良く周りを見てみな。ほら、その辺の床だ」
言われて床を見る。すると何人かが床に横たわっていた。
「死体だ」
男の言った意味が分からない。死体?本当に死んでいるのか。
「よく聞け。こっから脱出するには、恐らくだがロープを登る以外に方法はない。でだ。その辺の死体の主な死因は、ロープからの転落または餓死だ。ロープを登ると休憩スペースがたまに有る。そこには飲み物、食料がある。もし、お前が登った先で食料を見つけても決して下に投げるんじゃねぇぞ。それを奪い合う地獄が、ここで始まっちまう」
「何故、私にそれを教えてくれるんですか?」
親切に色々教えてくれた男に対して、私は失礼にも理由を聞いてしまった。
「なに。ただの親切心さ。こんな所に連れてこられて、知り合いの誰にも連絡は取れねぇ。もし、脱出が出来たら助けを読んで欲しい。下心なんてそれだけだ」
「分かりました。私の名前は高橋和美です。あなたの名前は?」
「俺は、土田幸次郎。もし、会社は日海商事ってとこだ。ホームページもあるから、もし、脱出出来れば電話してくれ。そこから皆に俺の状況は伝わるだろう。それと、体力有るうちにまず登ってみた方が良いぜ」
「分かりました。では、登ってきます」
私は土田さんに一礼し、ロープに向かって歩きだした。
土田さんが持たれていた壁には、その背から流れた血がついており、床には血溜まりが出来ていた。
決して振り返らず。床の死体を跨ぎ、また跨ぎ、私はロープに辿り着く。
ここは、一体どこなのだろう。
目が覚めてから何度そう思ったことか。
ロープを掴み、足を浮かせた時だった。
重たい扉が開くような重低音がしたと思った瞬間、今まであった床が下に開き、その上にあったものが全て奈落の底へ消えた。
自然とロープへしがみつく力が強まる。
何が起こったんだと驚いていると、開いた床が戻ってきた。
少しだけ、ほっとした。
また何かエスカレーターが動くような音が響き始めた。
私はロープから床に足を付けないでいた。
段々と音が大きく、どうやら何かが近づいてくるようだ。
ガタンッと音がすると、床の円の印のついた箇所が開き、その中からリフトによって人が押し出されてきた。円は全てで10箇所位だろうか。
人が次々に出てきた。どうやら全員眠っているようだ。
誰か起こそうかとも思ったが、土田さんの体力があるうちに登ってみた方が良いという言葉を思いだし、まず登ることにした。
私はまだ。上がどうなっているのか実際に見ていない。
先にここに居た人に教えて貰ったと言っても、もしかしたら起こした人は信じてくれないかもしれない。
ロープを左右の手で交互に掴みながら、壁に足を付け登る。
とりあえず、土田さんの言っていた休憩スペースを探そう。
なかなかに手が痛い。
幼少のアスレチックで壁を登る時にしか、こんな登りかたをしたことはないな。
一緒に遊んだ友達は大人になってからもやはり付き合いはある。
皆どうしているだろうか。家族も。
薄暗さと、ロープを掴む音、壁を歩く音。ロープを踏みしめているようなものだが、とにかくそれらと自分の呼吸音以外、ひたすら無音。
途方の無さ。
灯りは壁に埋め込まれていた。
そういえば、ちょっと暑いかもしれない。いつの間にか汗をかいていた。
段々と疲れも溜まってくる。絶対に筋肉痛になるねこれは。
疲れて床に戻り、筋肉痛で登れない人がでれば、その休憩スペースから食料が落ちてきたら、奪い合いになるのも頷ける。
本当、そろそろ休みたい。
床で助けを待っていた方が良かったんじゃないか。いや、床が開くからそれは駄目だ。
色々考えながら登っていた時だった。人が落ちて行った。上から下へ。
宜しくお願い致します。




