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色の有る客人

♢ 一


 辺りは夜のインディゴに染まり、すっかり藍暗くなっていました。勇者の呼吸と歩く音だけが響き、森はただ黙っているばかりです。


「ここの草木は似た色ばかりで、ずっと同じ場所を歩いている気がするね」


 タマゴの言葉の通り、勇者達は夜で視界が悪く道も整備されていない森の中を歩き続けていました。しかし、暫くすると勇者は歩き疲れてその場に座り込んでしまいました。


「ごめんね、ボクを抱えているから余計に疲れてしまうんだね」

「いや、いいんだ。それにしてもこの辺りに見覚えはないのかい?」


 そうしてタマゴが辺りを見渡すと、体を横に振りました。


「そうか。それじゃあ今夜はここで休んで朝になったらまた歩く事にしよう」


 勇者はそう言って寝転んで空を仰ぐと、そこには何時もと変わらない夜空が在りました。気付くとタマゴも傍に寄って来て一緒に月や星々を眺めました。


「友達と一緒に夜を過ごすなんて初めてだな」


 勇者がその言葉を呟き終わった後も、その声は二人の中に響き続けました。そして勇者がふと視線を下ろすとそこには月明りに照らされた小さな祠が在りました。


「どうした事だろう、確かに辺りには何も無かったはずだ」


 その祠はぼんやりとそこに立って、勇者達を見つめていました。二人は吸い寄せられる様に祠に近づくと、その中には不思議な風景の絵と虹色の一本の鉛筆が在りました。 


「これは一体何だろうか」

「ボクにもわからないけれど、この絵は君の描く絵に似ている気がするよ」


 勇者はその絵の詳細を目で捉えようとすると途端に認識出来なくなりました。それでもこの絵は何だかとても大切な絵のような気がして、勇者の心を優しく満たしていきました。


 すると俄かに、東の天末が青白く光って明るくなり始めました。


「先程まで夜空を眺めていたばかりだったじゃないか」

「そうだねぇ。あれ、ねぇ見てごらん」


 タマゴが言い終わる前に勇者がそちらを見ると、祠はすっかり影も形も無くなっていました。そして祠の在った場所には小道が出来ていました。


「確かに見たぞ。この道が今突然現れたのを」

「いいや、この道はきっと昔からここに在ったんだよ」


 勇者は何か返事をしようと考えましたが、タマゴに促されて先に進む事にしました。出来たばかりの古びた小道に沿って歩いていくと森を抜けました。そして向うの方には集落が見えて、この道はそこまで続いている様です。


「やっと森を抜けられたね」

「……そうだね、それに集落に行けばこの辺りの事も聞けるだろう。君の元居た場所の事も何か分かるかもしれないよ」


 そうして勇者達は昧爽まいそう時の空の下、集落まで続く道をまた歩き始めました。

 その道傍には小さな五輪塔ごりんとうが在りました。


♢ ニ


 もうすぐ集落に着く頃、右側の木々の間にぽっかりと開けた草地が在りました。そしてその傍の落葉松からまつの枝にとまっている一匹の雌の夜鷹のラクガキと出会いました。その夜鷹の色は斑な羽も全体が白黒に褪せていました。


「すみません、少しお尋ねしたい事があるのですが」


 勇者が声をかけると夜鷹は憂いを帯びた瞳をまん丸に開いて答えました。


「ええそれは構いませんが、貴方方はあの森の方からいらっしゃったのですか?」

「うん、そうだよ」


 夜鷹はタマゴの返事を聞くと暫く考えて、また耳まで裂けたくちばしを開きました。


「それは随分と遠くからいらっしゃったのですね……。それにしても、色の有る貴方方が何故この様な地を訪れるのですか?」

「いや、お尋ねしたい事もそれについてなんです」


 勇者は迷子のタマゴが元居た場所を探している事を伝えました。そしてそれらしい場所やこの地の事について尋ねました。


「そうですか。しかし残念ですがこの辺りに、貴方方の様に色の有る場所はもう一つとして残っていないのです。そして場所だけでなく食べる物も色を無くし始めています。私達はあの集落であわひえを食べて生活しているのですがそのどれも、もう色褪せ始めているのです」

「色が無いと何か困るの?」

「ええ、色の無い物は食べても空腹が満たされないのです。それでも微かに色の残っている物を食べているのですが、それもそう長くは持たないでしょう」


 夜鷹が話し終えると勇者は透き通った眼差しで再び尋ねました。


「どうして食べないといけないのですか?」


 キョキョキョキョ。と夜鷹は笑いました。

 しかしその声はどこか哀しそうでした。


「やはり貴方方は遠くの彼方からいらっしゃったのですね。そうと決まればどうぞ私達の集落に御出で下さい」

「わぁい。実は今からボク達もあの集落を訪れるつもりだったんだよ」


 タマゴはそう言って喜びました。

 勇者は貧しい集落で暮らすラクガキ達から持て成しを受ける事に引け目を感じましたが、この夜鷹の事を無下にできずその申し出を受け入れました。


「それでは夜鷹さん、どうぞ僕の肩にお乗り下さい」


 夜鷹はモジモジと戸惑っていましたが、勇者が肩を差し出すと申し訳なさそうにバサバサと音をたてて飛び移りました。

 

 こうして勇者達と夜鷹は集落へ向かいました。

 陽光を受けた木々が風に揺れて、チラチラとした陽溜まりを作りました。


♢ 三


「皆さん、ちょっと集まって下さい」


 集落に着くと、夜鷹がそこに住むラクガキ達を集めました。

 その集落には幾つかの、かやをかぶせた小屋と畑が在りました。


「なんだね、一体全体どうしたんだい」

「あら、夜鷹さんじゃない。いつもならお休みの時間でしょう?」

「俺はただでさえ腹が減って動きたくないんだ。手短に済ませてくれよ」


 夜鷹の呼びかけに蛙、兎、猿のラクガキ達がやって来ました。

 そしてそのラクガキ達の色は皆同じで、白黒に褪せていました。


「この様な辛い時に訪れてしまい申し訳ありません」


 そう言った勇者を見て、蛙のラクガキがクワッと声を荒げて言いました。


「おお、色の有る御方よ。夜鷹、この方々は何処から御出でなさったんだね」

「蛙さん、この方々はあの森の方からいらっしゃったのです」

 

 夜鷹の説明に集落のラクガキ達は顔を見合わせました。


「そうですか、あのもりの方から……」

「なんて事かしら」

「よし、それじゃあ持て成しの準備をしねぇとな」


 こうして勇者達は集落のラクガキ達から粟団子や稗粥、焼いた栗の実を振る舞われました。しかし、そのどれもが色褪せていて味も薄い気がしました。それでも心のこもった持て成しに勇者達は大変喜びました。


「よし、それでは僭越ながら歌を披露させていただきます」


 そう言って蛙は、クワ クワ クワ クワと歌い始めました。


「それじゃあ私も」


 今度は夜鷹が、キョキョキョキョと歌い始めました。


「よしきた!」


 すると今度は猿がその歌に合わせて珍妙な踊りを披露し始めました。それに続いて兎もピョンピョンと跳ねて踊り始めました。


「わぁ、楽しそう!ボク達も踊ろうよ!」


 タマゴもそう言ってグルグル回ったりして踊り始めました。


「……いや、僕は遠慮しておくよ」


 こうして勇者以外の皆はそれぞれ思い思いのやり方で自分を表現して遊びました。そんな皆を勇者は羨ましそうに眺めていました。


「そうだ!それじゃあ君は皆の絵を描いてよ!」


 タマゴの言葉を聞いて勇者は気持ちがパッと明るくなって、落ちていた木の枝で地面に皆の絵を描き始めました。その絵には蛙と兎が相撲をとったり、色々な遊戯をしているところが描かれていました。



 空が赤橙色せきとうしょくに焼けた頃、勇者とタマゴは集落を後にする事にしました。

 すると夜鷹が勇者達に声をかけました。


「やはり行って仕舞われるのですね」

「ええ、大切な友の帰る場所を探さなければ」


 そう言って勇者はタマゴを抱え上げました。


「それじゃあこの辺りじゃないみたいだから、またモラル川まで戻ってほしいな。ボクが何か思い出せそうなのは今のところあそこぐらいだし」

「そうだな、わかった」


 勇者とタマゴの会話を聞いて、集落のラクガキ達は不思議そうに顔を見合わせました。


「失礼ですが、貴方方は森の方からいらっしゃったのですよね?」

「はい、あの森の向うに在るモラル川を渡って来たのです」

 

 すると勇者と夜鷹の会話に猿が割り込んで来ました。


「そりゃあおかしな話ですぜ、なんせあの森の向うに川なんてねぇんだから」


 そんな筈は無い。と夜鷹や他のラクガキ達の方を見ても、真っ直ぐに勇者の顔を見つめているばかりでした。そうして勇者がタマゴを抱えたまま駆けだして森まで来た頃、辺りの影は一段と濃くなって行く道を怪しくしました。


「はぁ……はぁ……おかしい、来た時と違って森が一本道になっているぞ」

「あれ、もう森を抜けちゃいそうだよ」


 そうして森を抜けると、勇者達の目の前にはどこまでも続く海が広がっていました。

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