病室にて
事件の当事者同士があって話がしたいという事は、比較的珍しいことである。これは、十年に満たない姫野 琴音の経験則から来るものである。やはり殺人事件等に巻き込まれた人からすれば、思い出したくない事で、事情聴取ですらいい顔をしないものである。
だから、あの少年―村上 修一が、現場で出会っただけの少女に会って話がしたいことがあるといわれた時は、少々判断に困った。
「あの班長。先程話した少年なんですが、友人も連れて行ってもいいかと。」
「直接会わせるかどうかは、当人に聞いてみるしかないな。何せ意識が回復してもあの譲さんはだんまりを決め込んでる。」
姫野は、病院の廊下で再び村上少年から届いた連絡を上司であり、班長である|大熊
洋治に話す。身長168センチと女性にしては長身の姫野からすると166センチの大熊は非常に小さく見えてしまう。
そう。村上少年には来てもいいという話をしたのだが、当人の少女にはその話はまだしていない。病院に運ばれてきたときは、軽い裂傷と脳震盪を引き起こしていて、入院する予定はなかった。起きればすぐに事件の話を聞けるだろうと踏んでいたのだが、その山は外れ、彼女は事件の際何をしていたのか、なぜあの時間にあの場所にいたのか一切口を開いてくれなかったのだ。
しかし、幸いな事にある程度の状況は、つかめてきている。彼女の親が少々常識外であったことが理由である。名前等は持っていた生徒手帳から学校と両親を割り出し、連絡してみたところ現場にあった焼死体の正体は、彼の父親がた雇っていた私立探偵であることが、分かった。その存在に感づいた少女は、その男性のことをストーカーであると判断した。
これが、村上少年の証言を実際の内容に要約したものである。
その後、村上少年のあった、殺人犯に運悪く出会ってしまい殺害された。というのが、姫野達警察の推理なのだが、未だ繋がらない疑問点は残っている。それは、なんであの場所に少女が赴いたか、である。昼間であれば多少疑問はあるが、そこまでではなかっただろう。いや、もし、あの深夜帯であっても普通ならそこまで擬問に思わなかった。
しかし、問題は村上少年にある。たまたま現場に居合わせたのならそれでいい。だが、彼が現場に行った理由を覚えていないというのが引っかかる。そのことが、姫野達の班長の直感に引っかかっているらしい。
「その少年にはワシも話がしたいと思っていたんだ。丁度いい機会だ。あのお嬢様が拒んだらワシが直接話すとしよう。入ります。」
「はい。」
姫宮の班長が件の少女が入っている病室の戸をノックすると、女性の声で返事が返ってくる。高校生くらいの声ではないが、姫野とそう変わらない若々しい声の主は、少女の母親の者だった。
「奥さん、すみません。様子はどうでしょうか?」
「ええ。まだ口を聞いてくれません。よほどショックだったんだと思います。」
先程、父親が少々常識外であるといったのは、過保護という意味ではない。それは、彼女の父親は、大企業のトップであるという事だ。直と話を聞いたのだが、親の敷いたレールから離れた長女の様子が気がかりで私立探偵を雇っていたのだという。
その為、彼女に用意された病室は、非常に豪勢な個室であり、なんと専用の浴室も完備されている。普通に貧乏学生の一人暮らし部屋よりも間取りの広いその病室では、入り口付近で話す班長と母親の会話は、少女の元までは届かない。
そして、彼女にストーカーが父親の用意した私立探偵であったことも両親の要望で未だ伝えていない。
「奥さん。気持ちはわかりますが、ストーカーなんていなかったと分かれば彼女の心も少しは軽くなると思いますよ。」
「分かってます。分かってますけど、主人がそんなことをしていたなんて私も知らなかったんですよ? 娘が知ればもう家族にも戻れない気がして・・・・。」
姫野は同じ女性だからか、この母親の気持ちがよくわかる。聞いたところその少女は何でも与えてくれる父親から自立するために進学先を決めたとのことだった。その旨は父親にもしっかり伝えたはずなのだが、父親はよく思っていない。すれ違う思いはやはり摩擦を生み、あまり家族の環境はよろしくない。そこに、父親が監視をしていたと娘が知れば、確実に家族関係は破綻することになるだろう。
ある程度の理解のある班長もあまり強くは言わないのだが、ぽろっと言いかねない節はある。
「それで、何でしょうか。今日はもう帰ってもいいのでは?」
火傷や体中にある切り傷、脳震盪の方も検査の結果そこまでの影響はないと分かり、調書の方も黙秘をしているため思ったように取れない。その為、もう帰って、後日気分が落ち着いたときに再び話を聞く方向で母親を迎えによこしたのだが、
「実はですね、その時現場に居合わせた少年が聞きたいことがあるというんで、呼んだのですが。合わせてもよろしいですか?」
「ええ是非。私もお礼をと思っていましたので。」
母親が村上少年に対して好印象を持っているのは、やはり、足を怪我した娘を負ぶって、人間を生きたまま焼き殺した犯人から逃げてくれたことが効いているのだろう。それは、恐らく、少女からしても同様の感想を貰えると踏んでいる班長は、少年が来ることを許可してくれた。あわよくば、少年が話を聞きだしてくれることを願って。
「では、奥様の方から話を通してもらってもよろしいですか?」
「ええ、分かりましたわ。」
そう言うと母親は、娘のベットの方へ行ってしまったので、姫野は班長と共に入り口付近で待つことにした。
「若いお母さまですね。私お姉さまかと思いましたよ。」
「全くだ。科学の進歩ってやつか?」
少し、間の抜けた話になるのだが、被害者の母親(先程まで話していた女性)は、非常に若々しい。声もそうなのだが、容姿も含め、四十代には見えない。故に、電話の声と初めて見たときに、「ご両親はいないのですか?」、と聞いてしまった。身長150センチ中盤位で非常に痩せ型だ。と言っても不健康な細さはなく、自然と守りたいと思える柔らかさを持っている女性だと姫野は思う。
綺麗な黒いストレートの髪は、痛んでいる部分など無く毛先を金に染めているあの少女の母親とは思えない雰囲気なのだが、顔立ちは二人とも非常に整っていて美人だ。
そんな人妻の容姿を話のタネにするのはあまりよろしくないのだが、母親が姿を見せるまでくだらない話に花を咲かせていた。
「すみません。娘もお礼が言いたいで、会ってもいいとのことです。すぐに来るのですか?」
「ええ。恐らく。ただ、学生なのでどういった駅からとなると少々時間はかかると思いますがね。」
それから約三十分後に到着した村上少年達がタクシー出来たことを知った時は、
「今どきの若者はリッチだな~。」
と、倍の年齢のはずの班長と感想が被ったときは少々へこんだりもした。
病院に着いた修一と駒野は、受付の女性になんと説明すれば件の少女に会う事が出来るのか思案を重ねていた。最終的には、姫野さんに連絡し、迎えに来てもらう事でようやく話が先に進む。
「意外と早かったわね。」
「ええ。タクシーを使ってきたので。」
「今どきの若者はリッチだな。」
姫野さんと共に中年の男性がそう呟くと姫野さんよりも一歩、首位一の方に踏み出してくる。
「ワシは、大熊という。お前さんが村上君だね? 今後、ワシの方からも色々と話を聞かせてもらうよ。」
と、警察手帳を見せてくれる。身長160センチ中盤で姫野さんよりも小さい。しかし、筋肉は見た目の年齢からすれば非常に発達していて、日常的に鍛えていることは明白だろう。そして、
「あなたが、村上さんですか。本当に、本当にありがとうございました。」
1人の女性が、後ろから修一の目の前に歩み出ると、修一の右手を両手で握りしめる。駒野と同じくらいの身長で、年齢もそう変わらない見た目。一瞬何の話をしているのか分からなかったが、声は何処か聞き覚えがあった。
あの路地裏が昼間であれば、少女の顔を覚えていたのかもしれないが、街灯もない深夜の路地裏では顔の詳細まで見えない為、修一は覚えていない。しかし、その声と話の流れからあの少女の母親であることは推理できる。
思っていたより若い母親の登場で、あの少女は中学生の可能性も出て来たことに修一は動揺しながらも返事をする。
「い、いえ。自分のせいでもっと危ない目に遭ってしまったとも言えますし・・・・。」
「そんな。あなたがいなければ娘も・・・・・。」
燃やされていた。
その言葉が修一の頭の中をよぎり、あの蠢く焼死体の情景がフラッシュバックした時は、少しの吐き気を覚えるが、表情の変化には出さない。少女の母親の方は、想像しただけで寛恕が抑えられなかったようで、鞄の中からハンカチを取り出し、涙をぬぐう。
普通の病院の待合所でこんな事をしていては、やはり目立つようで周りの患者さんからの目線が集まりだし、看護師が近づくことを察知した大熊は、
「奥さん。気持ちは分かりますが、移動しましょう。ここでは。」
迷惑であるし、相応しくないだろうと、移動を促す。
幸い、少女の母親もそれだけの思考は出来る余裕はあったようで、姫野さんに背中を押されながらエレベーターの方へ向かう。
その間、未だ紹介されていない駒野は、完全に蚊帳の外であったことは言うまでもないだろう。
「それで、そちらの彼女さんは?」
ようやくエレベーター内で大熊が話に触れたときにようやく駒野は安心して自己紹介することが出来た。
「あ、えっと。駒野 優と言います。・・・。」
しかし、駒野にはそれ以上の自己紹介文を有していなかった。他にも自信を表すものは持っているが、ここに来る理由成り得るものは一切ないといってもいい。修一のクラスメイトであるが、まともに会話したのは今日が初めてだし、修一がかかわった事件に関しても無関係だ。
ここに来た理由は、件の少女が『スキルウォッチ』を有している可能性が高いとのことで来たのだが、そのことをいったところで信じてもらえるわけもなく。駒野は言葉に詰まる。が、
「電話を貰った時、一緒にいたので連れてきてしまったんです。クラスの友人で心配してくれていたので、一応、姫野さんにはいったんですが、まずかったでしょうか?」
修一が、嘘ではない内容をつないで大熊との話をつなぐ。
大熊も姫野に話を聞くが当然、姫野の方も詳しい説明は受けていないので、大熊が渋い顔を戻すことは無い。が、タイミングよくエレベーターが開き目的の回に到着する。駒野は、入り口の一番近くにいたこともあって一番最初に降りると、少女の母親の次に歩く。
その時、大熊の表情が変化したことに気付いたものは一人もいないだろう。
病室は、一人部屋でかつ角の部屋であり、大熊の班の部下が見張りに着いている。その理由は当然、この少女が犯人の顔を見ている可能性が高いからである。修一も同様なのだが、連絡先を知っているし、学校であれば居場所もはっきりしているので、意識のなかった少女方を見守っていた。中に入るのは修一と母親の二人で、駒野は一人、病室前の長椅子の上に腰掛けていた。
そんな駒野の隣に座り雑談でもしようとしていた姫野の右腕を出来る限り自然に大熊は引き留める。
「おい。あの子に着いてお前はなにか聞いてるのか?」
「いえ。さっきの説明以上は。恋人ですかね。」
まぁ、普通に考えればそういった回答が返ってくるのはごく自然なことだろう。しかし、大熊は、姫野の観察力のなさと緊張感のない回答にため息をもらす。
「はぁ・・、そういう事を言ってるんじゃない。あの子の左腕。ここからは見えんがあの少年が付けていた腕輪と同じものだ。そして、あの少女も着けていたな。」
「本当ですか。よく見てますね。高校生にはやってるんですかね?」
「お前、確かそれと同じものを現場で見つけてたよな。」
「はい。でも、何にも出なかったんじゃないんですか?」
「ああ。鑑識の上ではな。だが、もう少し調べる必要がありそうだな。」
大熊は一通りの意見のすり合わせを終えると、顎で姫野に駒野と話しをしてくるように命令する。
元々そのつもりであった姫野は、不満そうな表情を隠すことなく大熊を見てから、駒野座る長椅子へと向かっていった。
一方、少女のいる病室へと少女の母親と共に入って行った修一の左腕には病院にはいる時から感じていた震えが収まりつつあった。
この震えが出ているという事は、駒野の話であった通り近くにスキルウォッチを持っている人がいることを証明している。それが病室の少女か定かではなかったが、この病室に入ることで震えが消えるという事は決定的だといえる。
それは、会話可能な範囲。半径ニメートル以内に能力者が近づいた証拠である。下や上の階にいる可能性も頭をよぎったが、この病院の天井は、二メートル以上あるのでそのか脳性はありえない。個室の角部屋という事もその理由の一つに入れてもいいだろう。
いや、修一からすればあの路地裏の一件でその可能性は決定的であったといってもいい。今回は、その少女に修一が能力者であるとばれたことが確定された。
「あの。お母さんの方から初めに言ってもらってもいいですか?」
「? ええ、大丈夫よ。」
個室の病室はやはり、普段見る病室とはかなり作りが違う。修一が見たことのある病室は、四個くらいのベットがカーテンで仕訳けられている程度のプライベート空間しかないのだが、この病室には、シャワールームに個人用のトイレ、そして、入り口のドアからもう一つドアをくぐらなければベットのある部屋には辿り着かない。こんなにも好待遇する必要があるのかとも思うが、お金持ちや終末期の患者が、一般の入院患者と同じ病室に這いたくないモノなのだろうと勝手に想像する。
一枚隔てたドアの向こう側で何やら会話が聞こえてくる。その内容が聞こえるほど大声で話していないのだが、その声を荒げる様子はない。もし、あの少女が他の能力者はすべて的と考える人であればこの時点で修一と会う事を良しとしないだろう。最悪の場合ドアを開けた瞬間に電撃を打たれる覚悟をしていたが、そんな馬鹿では無くて安堵もしている。
「村上さんどうぞ。」
「はい。」
こういう風に一回誰かを通してから挨拶することに修一は違和感を感じざるを得ないが、あの母親がその点について疑問を持たなかったことはよかった。
少女の母親が開けてくれているドアをくぐると、そこには、まるでホテルの一室かと思うような病室が広がっていた。とわいえ、病院なのでベット周りは病人用になっているが、大きなテレビにソファーまでついている。
しかし、そんなものに目移りしている余裕は修一にはなかった。目の前にいうのは、一瞬で人間を殺す力を有した存在なのだから。
「妃和ちゃん。もう大丈夫だから、父さんに連絡してきて。」
「本当に大丈夫? 父さんは入院してもいいって言ってるのよ?」
「大丈夫だって。先生も言ってたでしょ問題は無いって。ほら早く。」
と、栗色の髪に毛先を金色に染めている少女は、母親の背中を押し、部屋から出そうとしている。
身長は150センチくらいだろうか。顔つきなどから見れば修一と同い年の気もするが、体の線がかなり細いので定かではない。顔立ちは、やはり親子の様で、母親に似てかなりの美人だと思う。
そんな二人の微笑ましい行動も修一には、冷汗の出る状況である。
何せ、この母親がいる間に少女が修一を殺すことは無いと考えているからである。さすがに日常の一部、いや、大切な家族の前で人を殺すことなど常人には出来ない。そして、あの路地裏の一件だけだが、彼女はまだ常識のあるヒトであろう。だが、そのリミッターがなくなれば。
母親が、病室から出ていく。こんだけの広い個室であれば、この場から電話しても問題ないだろうと思うが、母親が空気を呼んだのか、まじめの電話のできる場所へ向かったのか、病室には修一と少女の二人だけになる。
「さて。」
そう呟くと、少女は、右手で銃を表現する形を作る。人差し指と中指を修一の方へ向け、左手をその下に添える。
「待ってくれ、オレは君を殺さない。」
両手を上げ、外には聞こえない声量で修一は叫ぶのにコンマのタイムロスも無かっただろう。それが聞いたのか、元々すぐに殺すつもりはなかったのか分からないが、少女もすぐには初めてであった時に見せたように指先から電撃を撃ってこない。
「それをあたしに信じろっていうの?」
「信じてもらうしかオレには出来ない。」
どのくらいの沈黙の時間が二人の間に流れただろう。少女の母親が帰ってこなかったことを考えれば、そこまで長い時間は経っていないのかもしれない。あの母親が長電話をするタイプの女性でなければの話である。
この状況で修一に出来ることは、動かない事である。何せ彼女の出す電撃の威力は十分に理解しているからだ。その速度は、この距離で避けれるものではない為、動けば即発射。その可能性だってある。そして、修一がスキルを使用したところでこの場を切り抜けられる可能性が皆無だからでもある。何の能力か分からない以上、少女も信用できないし、修一自身も安心できない。だから、能力を使っておらず、無抵抗であることを少女の持っている良心に訴えることしかできない。
幸いな事に少女の良心は、この場で修一を殺す事をいいことではないと判断してくれたようで、彼女の顔にあった緊張の色が少し薄れる。しかし、未だに右手の人差し指と中指で作られた銃は、こちらを捉えているうちは安心できない。
「それで、なにしに来たの? その反応をするってことは、ワタシが能力者ってことを知ってる上で来たってことよね?」
「ああ。君の知っていることを聞きたいんだ。あの男と焼死体が誰だったのかってことも。『スキルウォッチ』のことも。」
「・・・・。いいわ。ただし、ワタシの能力についての質問はなしよ。」
「ああ、それで構わない。・・・・・あぁ、それともう一人紹介したい人がいるんだが、いいか?」
再び、少女の顔に緊張の色が戻ってくる事に修一は自身の発言の軽率さを後悔する。この場において彼女は、能力の速射性に自信を持っているだろうし、一対一であれば、優位に立てる能力だろう。しかし、数的有利を取られてしまえば、話は違ってくる。それにもし、自身の能力を上回る存在がいたと仮定したら。そんな、想像で、失敗を考えた修一の予想に反して、少女はその緊張の色が見える顔のまま無言で頷く。
なので、修一は、病室の外で待っているであろう駒野に携帯を使って中に入ってくるように連絡を送り、その文面を少女にも確認してもらう。こちらになにか企みがないことを証明するために。
数分も待つことなく、駒野がベットのある部屋のドアを開け、両手を挙げている修一とその修一に向けて手で作られた銃を向ける少女を確認し、訳も分からないまま、駒野も両手を上げる。
「・・・・仲間、なの?」
「ああ。」
普通に考えれば信じられないだろう。多くの敵を倒すことで能力が向上するゲームであれば、仲間を作ることは自然な流れだが、こと現実の人間を信用し、殺さなければならない状況下では、自分以外の能力者を信用することは困難だ。
しかし、その思考は、本当にこのゲームに参加しよう。そう決めた者にしかできない思考であることには、修一は気付いていない。未だ今までの日常をつまらなくも素敵な日常を生きたいと願う者にとっては、仲間が多いことは非常に素晴らしいことである。
「・・・ふっ。他にもいたのね。よかった。ワタシは、氷堂。氷堂 朱莉よ。」
少しの間の思考の停止。駒野の方が、先に両手を下ろして自己紹介をしているほどだ。
確かに目の前の少女―氷堂 朱莉には『スキルウォッチ』の説明はあまりしていない。駒野に電撃を放つ能力を説明したところ、恐らく第二型の能力者であるとのことだったので、時計を奪うことはまだ考えていないだろうから、人数が増えることの危険性を考えられないのだろうか? それとも考えたうえで友好関係を築く方が有用であると思えたのか? 氷堂の思考を何とか掴もうと修一は未だ両手を挙げている。
「いつまでその恰好してんのよ。大体、能力の使用時間なんてほとんど残ってないし。あんた達が敵対してきたら終わりだったしね。」
既に、駒野からの説明とレイドへの参加を完了したようで、修一の左腕にあった感じないほどの震えも完全に消滅する。修一からは見えないが、氷堂の『スキルウォッチ』にも白い線が入っていることだろう。
氷堂に話しかけられることで思考が中断された修一は、我に返り両手を下ろす。
簡単な自己紹介を済ませると同時に氷堂の母親が帰ってくる。何でも迎えの車が病院に来るとのことだったのだが、
「ワタシ、友達と帰るから。妃和ちゃんが車で帰って。」
と返事も聞かず駒野の腕をとって病院の外へと飛び出していった。
本来、修一がこの病院に来たのは、氷堂に会う事が目的だったのだが、姫野さんの話によれば大熊さんからいくつか聞きたいことがある。との話だったことを思い出し、二人についていく前に姫野さんの方を振り向くが、特に引き留められることはあなかった。
どうも、片桐ハルマと申します。
本当に本当に久しぶりの更新になりました。今年からは一ヶ月に一個は更新できるにように書き溜めていきたいのですが次から次へと設定を思いついてどれも進まないという悪循環になってしまっています。
少なくとも一つは完結したいと思いますので是非とも長い目で見続けていただければと思います。