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目覚めのきつけ

 真夜中の街中。眠らない町と呼ばれるこの街にも誰もいない、光も無い路地裏というものは存在する。まばらに立っている街頭のいくつかは、切れかけているようで点滅している物もある。正確な現在の時間が分からないが、日の出にはまだまだ時間があるだろう。雲一つない快晴でもあるのにもかかわらず、この路地裏の一角が湿っているように感じるのは、朝と夜の寒暖差が所以だろう。そして、星の光が見えるほどにこの路地裏は、非常に暗い。

 

 そんな、一般の人が好んで近づこうと思わない路地裏のアスファルトの上に一人の青年が寝そべっていた。来ている灰色のブレザーはどうやら学校の制服のようで、ブレザーよりは、黒の色が強いズボンを穿いている。また、彼のすぐそばに学生鞄が落ちているので、青年から少年の範囲の年齢の男性。


 しかし、学生だとしたらなぜこんな時間にこんな場所にいるのだろうか? ここから離れた場所に行けば、未成年の男子生徒が歩き回れば即、お巡りさんに引き留められる時間だ。それに、ホームレスというには少々しっかりした身なりだし、高校に通う財力はないだろう。非行に走っているような雰囲気も眠っているだけでは分からないが、周りに他の人がいる雰囲気は全くない。


 「う、うう・・・・。」


 少年が目を覚ましたようで体がピクリと動く。手を握り、指が地面の少し湿った冷たいアスファルトの上をなぞり、うつ伏せの状態から顔尾を上げる。うっすらと目は開いているように見えるがまだ自身がどんな状態にあるのかは分からないようだ。

 しかし、そんな少年のまどろみも長くは続かなかったようで、辺りから感じる違和感(頬をなでる外気。手が触る明日割るとの感触。)に気付き、頭を振って周りを確認し始めこう呟く。


 「どこだよ、ここ。」



 近くに落ちている鞄の中を確認してみると、いくつかの教科書とルーズリーフ、携帯電話、財布と中身を確認している間に鞄の中から学生証がこぼれ落ちる。


 『村上 俊一

 私立 経世高校二年』


 という文字が見て取れることからこの少年は、高校二年生の村上 俊一であることが顔写真からもよくわかる。

 端整な顔立ちなのだろうか。基準が不明だが不細工という評価をされることは無いだろう。また、日常的に運動しているようで、顔をはじめとする体の部位に余分な脂肪は見て取れず、むしろ、筋肉は常人よりもあるかもしれない。といわゆる細マッチョに近い体系。身長は見た目だけでも、170センチは優に超えているだろう。

 俊一も鞄からこぼれ落ちた学生証に気付き、鞄の中にしまう。


 「多分、全部あるよな・・・・。」


 こんな状況になっても携帯電話と、財布を一番最初に確認してしまうのは、平和ボケなのだろうか。幸い財布の中身は最後に記憶していた金額と相違ない。スマートフォンの画面を明るくし、現在の時刻と場所を確認しようと思ったが、真っ暗な画面は電源ボタンを押しても明るくならない。


 「充電が無いのか。」


 壊れてしまった可能性も一瞬頭をよぎったが、外傷は少ないし、元々、この形状の携帯電話は一日いじっていれば充電は無くなってしまうものだ。仕方なく、鞄の中から携帯充電器を取り出し、携帯電話を充電状態にして、鞄の中にしまう。腕時計でも日常的に付けていれば、ここで左手首を見るかもしれないが、修一は普段から腕時計をしていないので、確認することは無い。


 「ここは何処なんだろうか?」


 少し落ち着いて再び周りを見渡してみても俊一にはこの場所の見覚えは全くない。辺りが暗すぎてあまりよく見えないが、そこまで高くないビル群の中に俊一はいるらしく、見える範囲の光源は、点滅する街頭か月の光くらいだろう。

 俊一自身にも持物にも変わりがないことを考えると物取りや、事件に巻き込まれた可能性はかなり低いであろう。しかし、何かしらの外的要因によってこの場所に連れて来られた可能性が高いことは、俊一の最後の記憶から明らかである。


 最後の記憶。それは、学校帰りに友人とたわいもない雑談をしていたはずだった。部活に入っていない俊一は、日暮れ前の帰路で友人たちと携帯ゲームや学校での話をしていたはずだ。そこからどうしてこんな時間に街中にいるのだろうか? 何かとくべつな事なんてなかったか? 寧ろ、暇な一日であったと記憶している。そんな、最後の記憶をたどっていくと、左側頭部に嫌な痛みが走り、俊一は左手で頭を抑える。

 手のひららを確認してみると血はなかったので外傷はないだろう。かわりに、俊一が普段付けないであろうものが左手の手首に付けられていた。


 「時計・・・・なのか?」


 それは一見腕時計のような形状をしているのだが、あまりに細い上に文字盤が存在しない。全体的2センチくらいのゴム製のそれは、唯一、手の甲の部分だけは3センチくらいに太くなっていた。普通であればその太い部分に文字版やらデジタル画面がありそうなものだが、それはただのゴムバンド。そいう言う感想を与える。さらに、


 「なんだ。どうやって外すんだ?」


 一周見て見ても連結部のような物は全く見当たらない。隠れているのかと思って色んな部分を見てみてもそれらしき場所を見つけることが出来ない。さらに、引っ張ってみても全く伸びないのだ。手首を捻ったりするときは形状が変わっているように違和感を全く与えないのだが、右手で思いっきり引っ張ってみても、肌に張り付いているかのように僅かな隙間すれ出来ない。


 全体的に黒で統一されているため、周りの暗さと同化して外しにくいのだろうと判断し、俊一は再びここが何処なのか、なんでここにいるのかという思考に戻ってみる。

 しかし、これといって手掛かりが無い状況ではここが何処なのか手掛かりが全くない。スマートフォンが復活すればGPSを使ってここが何処なのか分かるかもしれないが、現状その手は使えない。


 俊一は、このままアスファルトの上に座って思案していたとしても変わらないと判断し、立ち上がると歩き始める。この路地裏は、一本道の様で後ろに進むか前に行くか思案しているようだったが、直ぐに方向は決まる。

 俊一のほぼ真上の街頭は点滅していて今にも切れそうだ。そして、後ろの街灯も同様に点滅しているのに対して、前にある街灯は未だに煌々と光っている。どちらの方角が、この路地裏から脱することのできる方角かは全く分からないが、暗い方には進みたくないのが人間の嵯峨だろう。


 鞄を抱え、二年目にしてくたびれ始めているローファーを履き直す。

 灰色のブレザーは前のボタンは閉めず、Yシャツの第一ボタンを開ける。ネクタイを緩める首元には冷や汗をかいているのが分かる。緊張してるのか妙に喉が渇く気がするが、先程鞄の中には飲めるものは入っていなかった。


 どのくらい歩いただろうか。いや、恐らく五分と歩いていないのだろう。明りの少ない路地裏は脱していないし、人一人ともすれ違っていない。が、俊一の目の前の風景には一つの変化が現れた。


 「誰かいるのか、助かった。」


 まだ、誰ともすれ違っていない俊一がそう確信した理由は、目の前の路地に浮かぶ光にある。今までも十字路はあったし、その向こうに街灯から伸びる光はあった。しかし、今回の灯りは揺れているのだ。今日日、動く街灯なんてあるだろうか? いや、俊一の生きて来た17年間の人生においてそんなものはみたことが無い。だから、この路地の先には人為的要因の光源があるという事だ。


 期待に足が浮つき、駆け足でその光源が漏れている路地へと向かっていると、俊一の鼻腔を擽臭いが、その足を緩めていく。


 焦げ臭いのだ。


 何かを焼いているのは確かで、あの光源が彫脳という事は分かる。しかし、その匂いは木や新聞紙などの可燃性のもの以外のものを焼いているような匂いだ。それだけならまだいい。焼き芋やBBQ火を使って焼くものはいくらだってある。しかし、その匂いは、いやな予感を俊一に与えた。そして、もう一つ。左手が異常に震えるのだ。なぜかは、分からないが、震える左手を右手で握りしめる。

 路地から頭だけを突き出して向こう側に広がる光景に目線を飛ばす。

 そこには、一人の人間の人影と、燃え滾る炎が見て取れた。炎の方に体を向けているようで、俊一の存在には気が付いていない。逆光でよく見えないが恐らく男性だろう。

 もし、その男性が焚火を前に体育座りでもしていてくれたら、俊一は喜んで彼に走り寄って行ったことだろう。しかし、彼(もしくは彼女)は、天に顔を向け、両手を空に広げていたのだ。


 明かな異常。


 そんなものを感じることはそうないだろう。実際そう感じたとしても異常であることは少ないだろう。しかし、今回ばかりは俊一のいやな予感は的中した。その数秒の躊躇が、俊一の命を助けたといっていい光景が、数秒後に飛び込んできた。


 動いたのだ。


 彼(もしくは彼女)の目の前にある焚火が、右に左に動き、30メートルは離れているこの場所にまで聞こえる音を響かせた。


 「むぅごぁああぁあぁぁぁ。」


 それは、人の声帯から発せられた音の様には思えなかった。

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