ああ、七週目
「おはよー、相棒!」
朝登校したら、友人の日野山が話しかけてくる。
コイツは謎の情報網を持つ男で、俺のたった一人の友人である。
ちなみに、俺のことは相棒としか呼ばない。
「今日はどうするんだ?」
毎朝同じ事を聞いてくる。
ここでの返答によって学校での行動が決まってしまうので、注意して返答しなければいけない。
「今日は部活に出ようと思う」
俺の口からは選択肢と寸分たがわぬ言葉が吐き出された。
言い忘れたが、俺はこの世界がゲームだと知っているし、その主人公であるが、自由意志などは存在しない。
神であるプレイヤーから下された選択を唯々諾々と実行するのみである。
先週俺はゲーム部に入った。
ここは攻略対象である美杉可憐のいる部活で、放課後にゲームを延々とするだけの狂った部活動だ。
どういう経緯で予算が下りているのか、そもそもなぜ認められたのかなど疑問は尽きないが、所謂ご都合主義というものなのだろう。
「そっかそっか。あ、そういえば来週なんだけど、古野花神社で夏祭りがあるらしいぜ。気に入った子でも誘ってみたらどうだ?」
イベントの紹介だ。
思えば彼も不憫な役回りだと思う。
こうして俺にあれやこれやと情報をくれるだけくれるが、肝心な自分は誰とも付き合わずにラストでは『羨ましいぜ!』とだけ言って卒業してしまう。
その後彼がどうなったのかはスタッフロールにすら出てこない。
「夏祭りかあ。誰か誘ってみようかな……」
このセリフも何度目だろうか。
いい加減に飽きないのだろうか。
俺はもう飽きたんだが。
「よし、可憐ちゃんを誘ってみよう!」
口を出る言葉が心とは正反対。
もうこれ七週目だぞ。いい加減どうでもいいキャラじゃないんだろうか。
ちなみに俺はどうでもいい。
あざとくてムカつくんだよなあ、この子。
攻略順的に、プレイヤーも同じ感想ではなかろうか。
もう意地で全キャラコンプしようとしているのかもしれないが、その行為はきっとなんの意味もないぞ。
だって全キャラクリアしても何のイベントもないから。
「おっとそろそろ授業が始まるな。また休み時間な!」
そう言って日野山は離れていく。
彼ともいつか胸の内を語りたいものだ。