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世界は思うまま

 バステンは顔を赤らめて、熱のこもった視線を俺に向ける。

 冷めた。

 いや、蔑みとも捉えるられる視線で俺はバステンを上から見下した。


「アルフ様、もっと……下さい」


「黙れ」


 尻を蹴り飛ばす。

 何だかもうこれでも良いとさえ思えてしまう。


「で、これから王都へ行く。おい勇者の場所教えてくれ」


 先んじて、手を打つ。

 俺とイーネの能力がバレる前に倒しておく必要があるからだ。

 馬は勿論バステンに出させる。

 母クイハを巻き込んだ代償は必ず払ってもらう。





「ダーリン。どうするの?」


「バステンによると、勇者と魔導師は王都の豪邸に悠々自適な生活をしてるって」


「ほんと、人間って悪いわね。頭がおかしいわ」


「確かに悪魔より、人間の方が悪どいかも」


 馬を走らせて、一時間。

 王都に辿り着いた。

 目的はただ一つ。

 寄り道なんて必要ない。


「バステン」


「はい、何でしょうか!」


「勇者の住処教えろ」


 バステンに着いて行って、すぐにそこは見えた。

 城とさえ思える程の豪邸。

 バステンの家も相当凄かったが、更にそれを上回るだろう。


「俺たちがいきなり行ったら怪しまれる。バステンが訪ねたことにしよう」


「そうねー。いきなりダーリンが家をぶち壊しても良いとは思うけど」


「それはダメだ。この先やりにくくなる」


 家の前を警備する者に、バステンは指示された通りに話しかけた。


「バステンだ。こちらまで来たので、勇者に御目通り願いたい」


「はっ! そちらは?」


「私の従者だ」


 それを疑う事もなく、警備者は俺たちを中へ通した。

 間抜けめ。


「これは、バステン殿。お久しぶりです。何やら村の民家を燃やしたとか。相変わらず派手にやりますな」


 これが勇者か。

 思っていたよりも細いし、何より覇気がない。


「流石勇者様、耳が早い」


「して、何用かな。……そちらの二人、殺気が漏れているぞ?」


 速い!

 いつの間にか手には剣を握り、勇者は俺たちに切りかかっきた。


「はーい、ストップ!」


 イーネは呪文を唱えることもなく、ただ手を振るうだけでその剣の動きを止めた。


「ほう、闇魔法か。来いアルバ!」


「御意!」


 どこから現れたのか、魔導師が持つという大型の杖を片手に勇者を援護した。


「不浄な」


「不浄だと? お前たちが、俺の母を殺したんだろうが!」


 天地創造を発動する。

 再び動き出した剣を、俺は創造によって生み出した剣で受け止めた。


「この聖剣を受け止めるか」


「イーネ、そっちの魔導師を頼む!」


「ダーリンの仰せのままに!」


「イーネ!? やはり悪魔の名を冠するだけあるか!」


 バステンはただ頭を抱えて、その様子を見ないようにしていた。

 構図は俺と勇者、イーネと魔導師となる。


「私も本気を出すとしよう。数多の命を奪ったこの剣でな。知ってるか? この剣は聖剣なんて呼ばれているが、実は違う。これは定期的に人の命を啜る邪剣だよ」


「黙れえええええ!」


 天地創造を惜しげもなく使う。

 勇者の剣にツルをイメージして巻き付けた。


「ふ、ぬ!」


「一撃で!」


 巻き付いたはずのツルを、勇者は一撃で消滅させる。

 敵ながらあまりも力強く、そして聖剣の切れ味を思い知らされた。


「だけど、もう遅い」


 簡単だ。

 石を想像すれば良い。

 勇者が動かなくなる程の石を。

 全身を石にしてしまえば、それで終わりだ。


「何!? これは石化の呪い!」


「石になって詫びろ。殺しはしない。ただ、永遠の生をその動かない身体で見続けておけ」


 ……イーネは?


「キス様が、石に!」


「余所見なんて余裕よねー。はい、さよなら」


「っ、杖が弾け飛んで!」


 それはあまりに無残だった。

 殺されもせず、圧倒的な力で制圧される。

 それはまるで、勇者が昔に行った……。


「待ってくれ、イーネ。殺すのはダメだ」


「そうなの? ま、良いけど」


 勇者の石化を俺は解いた。

 腕の石化は残したまま、話をする。


「何故石化を。慈悲のつもりか?」


「いや、慈悲よりも辛い。屈辱かもしれないが、選ばしてやる」


 俺は力を手に入れた。

 だが、それを使って恨みを晴らして、その先に何が待つのか。

 恨みは連鎖を生み、それはいつか身に降りかかる。

 ならば、生かしてやる。

 この俺の世界への復讐に向かって、使えるものは何でも使う。


「俺たちを手伝え」


 それは、確かに動き出した俺の復讐だった。





 数年後、とある噂が世界に流れた。

 何でも天地創造を扱う人間が、悪魔と組んで世界を支配しようとするという噂だ。

 誰が信じるのか。

 そんな戯言は、誰も信じようとしなかった。


 だが、妙な話がある。

 何でも、その人間は倒した人間を必ず味方にすると。

 膨れ上がったその力は、どこへ向かうのだろうか。


「ダーリン、美味しい?」


「いや、この地方の菓子は美味しくない」


「ひっどーい! 折角イーネちゃんが作ったのに!」


「悪い悪い。それにしてもここまで長かったな」


 それは、噂だ。

 吹けば飛ぶような、些細な噂。


「アルフ様、神々との最後の戦いです。天地創造を奪い返しに来ていますが。出迎えて宜しいですか」


「だな。では、一番槍は勇者に任そう。だが、お前も丸くなったな」


「ご冗談を。今でも私はアルフ様の首を狙っていますよ」


「そんなことしたらイーネちゃんが、お前を殺すから」


 さぁ、世界を手に入れよう。

 それが悪魔と契約した俺の運命。

 ——世界は俺の思うままだ。

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