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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
2章 2つの世界と2つの復讐
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ご注文はお菓子ですか

 夢は見なかった。

 心身ともに疲れていたからか、夢の内容を覚えていないだけなのか。

 何はともあれ、ここ数年で一番ぐっすりと眠れた。


 時計を見ると20時、つまり半日熟睡していたことになる。

 昨日の白い空間とは対照的に、窓の外は黒く染まっていた。


 体を起こし、ノートの存在を確認した。

 足や翼が生えて移動するなんてことを少し心配していたが、同じ場所にあったのでホッとした。


 大きく背伸びをしながら、これからの事を考え始めた。

 苦しめて、壊して、殺す。

 これからのスローガンとなったその言葉は、短い文章とは裏腹に、非常に長く困難な活動になると読み解れた。


 具体的に苦しめるとはそうすればいいのか。

 病気にさせる、五感を潰す、虫に変身させる、最愛の人を殺させる、一生食事ができない体にする、髪の毛を一本残らず燃やしてハゲにする?

 どうするにしろ、死は救いとなるという考えをもった僕には、もはやエンジェルノートと化した魔法具に頼る事はできない。


 医者を全員殺せばなんとかなるか?

 現実的ではない。日本だけでも医者は何万人いるのか分からないし、名前を探して一人一人殺すのには無理がある。

 国のリーダーを殺せばなんとかなるか?

 無理だ。殺しても殺しても彼らの代わりはきっといる。


 仮に実行しても、途中でヤバイ事が起きているという事は馬鹿にでも分かってしまう。

 テレビで名探偵に「お前を探し出して必ず逮捕してやる」なんて言われたら、絶対に眠れそうにない。

 "人を殺しまくってるけど何か質問ある?"ってスレを立てて最後に"もうだめぽ"と書いて捕まるのも面白そうで悪くはないが、僕の目的はソレじゃない。




 ……だんだん考えるのがめんどくさくなってきた。

 どうせなら目の前のボタン押せば人類みんな苦しんで死ぬ、みたいな魔法具がほしかった。

 なんだよノートって。時代は電子媒体だろ。そうすればコピペすれば楽に終わるのに。


「……トランさんに聞いてみようかな。」

 全力で他力本願な言葉が自然と口から出た。

 ノートに名前書いたら相手は死ぬみたいなチートアイテムを持ってるトランさんなら、ひょっとしたら


 魔法具:神の意志による最終判断 <アルティメット・ジャッジメント・オーバーブレイク>

 所有者の想像通りに対象の運命を操作できる。

 所有者は一時的に世界とは断絶され、補足できなくなる。

 魔法具使用によるデメリットは存在しない。


 ……こんな感じの、恥ずかしビックリドッキリな魔法具を持っているかもしれない。

 否、持っているに違いない。持っていない訳がない。

 この時初めて、僕はトランさんの事を心の底から信じた。持っていてくれと願った。


 まぁ、魔法具ねだりとは別に、また会いたい、話をしてみたいからという下心にも似た理由もある。

 むしろそっちのほうが大きいのかもしれない。

 ファンタジーって言葉の響きが既にかっこいいんだから反則だと思う。

 お願いしたら異世界に連れてってくれないかな。今度お願いしてみよう。


 グ~とお腹が鳴った。

 久々に頭をフル回転させた上、よく考えれば昨日から何も食べてない。

 冷蔵庫を開けると、身辺整理で全て処分した事を、電気の通ってない生ぬるい冷蔵庫を見て思い出した。


 腹は減っては戦はできぬ という偉い人が作った言葉がある。


 僕は数少ない外出専用服に着替え、夜の街へとくり出した。

 黒い夜空に浮かぶ美しい満月が、僕を応援しているように見えた。



 ◇◇◇◇◇



 人は、一つや二つ、少なからずこだわり(・・・・)を持っていると思う。

 目玉焼きにはソース、ポテチはカ○ビー、キノコよりタケノコが至高――。


 くだらないと言い放つ人もいれば「わかる、タケノコのほうが絶対に美味しい。特にクッキーの部分が最高。キノコ好きは味覚がおかしい」と言う人もいる。

 小さなこだわりは、退屈な生活へのスパイスになっていると思う。

 だから僕は、小さなこだわりに、大きなこだわりを持っていた。


 さきほど、小さなこだわりが崩壊した。「このデブ、こんなにお菓子食うのかよ。だからデブなんだよ」と店員に思われたくないから"菓子を買うときは複数の店舗をローテーションして買い物をする"いうしょうもないこだわりが崩壊した。


 今、僕の両手には大量のお菓子が入った袋がぶら下がっている。

 8人くらいでパーティーができそうな量だが、当然友達のいない僕がパーティーなんて開催する訳がない。

 さすがのデブでも、これだけの量を一度には買わない。あるだけ食べる才能を持つデブにとって、大量買いは自殺行為に等しいからだ。


 この大量買いには理由がある。

 スーパーに入ってすぐ[おしゃれなお菓子ギフトコーナー いつもお世話になってる人にプレゼントを贈ろう]というデカい文字が目に入った。

 人と関わりを持っていない僕に贈る相手なんていないので、いつもなら目に留まる事すらないのだが、こちらの世界の食べ物の話をした時、トランさんが唇を輝かせながら「カッカッカ! 色々な食べ物があるんだな! 食べてみたいからここから出れるようになったら案内してよ」と言っていた事を思い出した。


 つまり、このお菓子は全てトランさんへの贈り物だ。


「こちらの世界から向こうの世界へ物を持ち込めるのか?」という疑問が思い浮かんだが、全裸では無かったから服は大丈夫という事だし、よくよく考えれば向こうからノートを持って来ている。

 だったら持って行けるんじゃないか、そう思ったら自然とご覧の量のお菓子を買っていた。

 荷物は重かったが、家路への足取りは軽かった。


 帰宅してすぐにお菓子がつまったビニール袋を両肩にかけ、デーモンノートの前に立った。


「さらば人類! また会おう!」


 厨二病っぽい声を出しながら、ノートに自分の名前く。書き切った瞬間、目の前が真っ暗になった。

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