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死亡理由と存在理由

「……監獄って事は、トランさん何か悪い事でもしたんですか?」


 この人なら僕が思いつかない悪事を働きそうな気がする。

 だって見ず知らずの人に、しかも背後から凄い勢いで魔法を叩きつける人だ。

 軽く殺人くらいならしていても不思議に思わない。


「してないしてない! ただちょっと人類を滅ぼそうとしただけだよね!」


 さらっと、今日のランチのメニューを言うような、そんな軽い感じで物騒な事を口走っていた。


「カッカッカ! ただね、それには理由があるんだよ。

 父は灰すら残らなくなるまで炎魔法で焼かれ続け、殺された。

 母は光魔法で頭を射抜かれ、殺された。

 妹は晒し台で槍や石を投げられ、最後にギロチンで殺された。

 すべてが壊された! すべてが壊された! お前ら人間に!

 カッカッカ! 我が親族は全部、お前ら人類に殺された!」


 白い空間が、一瞬で黒に染まった。


 黒というより闇と表現したほうが、きっと正しいんだろう。

 その闇は、目の前の存在からは絶対に逃げられない事を教えてくれた。


 トランさんは笑ってはいるが、その言葉1つ1つには確かな殺意が伝わってきた。

 それは、平和ボケした日本に住んでいる僕でもわかるような、分かりやすい、明確な殺意。


 黒とは対照にあるかのような紅い瞳に、僕

の命は捕らえられたような感覚に陥った。

 腰まである紫がかった髪をなびかせ、まるで地獄の閻魔大王のような威圧感を放ちながら、彼女は言った。


「私はね、魔族の王、つまり魔王なんだよ」


 目の前の彼女は、トランさんは、ミクトラント・カールソルは、確かに自分を魔王だと言った。

 それを証明するかのように、全ての闇が殺意を持ってこちらを見つめている。


 呼吸ができない。

 全身から魂が噴き出しているように感じる。

 可能ならばもう一度、今すぐにでも自害したいが、目の前の存在がそれを許してはくれないだろう。


 何分経ったのだろうか。

 いや、きっと数秒も経ってはいない。


 魔王の顔から視線を逸らすことができない。

 彼女の前ではどんな小細工を考えても無理だ、諦めろと脳が警告を鳴らしている。

 何か考えなければいけない状況、だけども思考が停止する。

 あぁ、猫に追い詰められた鼠っていうのは、きっとこんな感じなのだろう。



「最初にも聞いたんだけど、君はどうしてここに居るのかな?」



 ここから先はきっと、いや間違いなく、何か1つでも間違えば殺される。

 間違えなくても殺されるのかもしれない。

 ただ、すぐに殺されはしないだろう。

 きっと、いや間違いなく、苦しんで苦しんで、苦しんだ上で殺される。


 この場には味方が誰一人としていない。

 殺意だけが存在している世界。



「ははっ……」



 震えた口で、僕は確かに小さく笑った。

 だって、こんなにも笑える状況なんて、今まで経験した事が無かったんだから。


 僕は生まれた時から誰にも必要とされてなくて。

 そう、誰からも必要とされなくて。

 誰からも忌み嫌われていて。

 居ても居なくても何も変わらなくて。

 きっと小倉影秋という存在が消えても、何事もなく世界は動き出しているだろう。


 そんな僕がここに、そう、魔王なんかの前にいる存在理由なんて、1つしかないじゃないか。

 神様がようやく僕を必要としてくれたんだ。お前はせめて魔王のエサになれと。

 殺されることで誰かの役に立てと。


 あぁ、確かにそれは楽しそうかもしれない。

 僕は頭を上げ、腕を大きく広げ、小さく笑いながら、目の前の魔王にこう答えた。



「――僕はきっと、あなたに殺される為にここに来ました」

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