隣の世界は青い
「私の事はまぁ……適当にあだ名で呼んでくれよ! 」
少し前に、コクラ・カゲアキという名前は長いから"アキ"と呼んでいいかとミクトラント・カールソルさんが聞いてきた。
いや、性格には「アキと呼ぶことにする、いいね?」と半ば強制的に決められた訳なのですが。
「……ではトランさんと呼びますね」
ミクだと某ボーカロイドの顔が目に浮かんでしまう、それだけは、それだけは止めようと思った。
トランさんはすごく満足そうだった。
傷を治してもらってからしばらく、トランさんとは様々な話を交わした。
どこから来たか、何しにきたか、どうやってこの世界に入り込めたのか。
最初は真剣な眼差しで色々と質問をしてきたトランさんだったが、少し何かを考えた後に目を輝かせながら僕にこう言った。
「アキの世界は楽しそうだな! こっちの世界なんて歪でまったく楽しくない!」
それからというもの、僕とトランさんはお互いの世界について教えあった。
食べ物はどのような物があるのか、どんな所に住んでいるのか、世界はどんな風になっているか。
トランさんは、1つ1つの答えを仏もビックリの喜怒哀楽で表現してくれた。
そんな僕も、トランさんの世界の話を、きっと同じように表現していた。
「私は世界は1つだと思っていたが、なるほど、世界は奇怪だな!」
「僕もこのつまらない世界だけだと思ってたけど、素晴らしい世界もあったんですね!」
「カッカッカ! 私の世界に比べればアキの世界なんてのは、もう輝いてみえるぞ!」
トランさんの世界は一言で表すなら、剣と魔法のファンタジー!
魔物や悪魔、獣人まで存在する、なんというかもう本当にファンタジー!
魔法は攻撃魔法と回復魔法だけじゃなく、強化魔法や弱体魔法まであるなんてまさにファンタジー!
ファンタジーが存在すると聞いて心ときめかない人間は、私は聞いたことが無い!
「でもトランさん、この場所は真っ白で何もないようですけど、ここは何処なんですか?」
そう、今いるこの部屋と言うべきか、切れ目の無い空間と例えるべきか。
おおよそファンタジーとはかけ離れた、真っ白で、本当に一面真っ白すぎて何もない景色が広がっている。
今立っているこの場所だって、空に浮かんでいるような錯覚さえ覚える。
少し前に気づいたが、自分の影すら無い。
だから本当に、僕とトランさんの存在以外は、白でできていた。
「この場所は……そうだな……」
少し悩んだ後、トランさんはこう言った。
「アキの世界で例えると、ここは監獄なんだよ」
すこし真面目な顔をして、トランさんは答えてくれた。
「……トランさんの世界には監獄はないんですか?」
「いや、あるけどね」
あるのかよ。どういうことだ。