第8話
明けまして、おめでとうございます!!本年も、『エルスの勇者』をよろしくお願い致します☆
「俺…読んじゃった…」
青ざめたロイスが、ヴァルを見て訴える。
「とにかく、アレを止めろ」
ヴァルは、うなり続ける竜巻に向かって顎をしゃくった。
「っ…」
ぐっと押し黙るロイスに、サラが首を傾げる。
「もしかして…止め方がわからないとか?」
窺いながら問いかけると、ロイスの眉が余計に下がった。
「…うん」
項を垂れ、ロイスは落ち込んだ。
やれやれといった様子で、ヴァルが一つ大きく息をついた。
「アレに向かって叫べ」
「えっ?」
意図が汲みとれず、ロイスは戸惑う。
「何でもいい。止まれという心を全力で込めて叫べ」
腕組みをして、ヴァルは助言を付け加えた。
「…わかった」
ロイスが、おずおずと立ち上がった。
そして、水際いっぱいまで竜巻に接近して酸素を吸う。
「消えろぉぉーー!」
ロイスは、怒鳴りつけるような声を張り上げた。
―――次第に、竜巻の回転が緩やかになってゆく。
「とっ…止まった…?」
渦巻く風が分解されていったのと同時に、ロイスは尻もちをついた。
騒動が収まってから、一行は休憩場所まで戻って座った。
「ロイス。竜巻は、この呪文を声に出して読んだらすぐに起こったのか?」
古びた若草の紙を手に掴んで、ヴァルは尋ねた。
「うん。何が書いてあるんだろって声に出して読んだら、いきなり…」
ロイスは、自分の行動を思い出しながら答えた。
「意識をしなくても、魔法を使うことは可能なのですか?」
ヴァルの表情を見ながら、サラが問いかけた。
「魔法の発動には、いくつかのパターンがある」
木の枝を手にしたヴァルは、地面を削って素早く、『スペル』『イメージ』と書いた。
「大きく分けると、呪文に魔力をのせるスペル型、想像に魔力をのせるイメージ型とがある」
用語を丸で囲みながら、それぞれについて説明する。
「お前がやったのは、おそらくスペル型だ」
『スペル』の文字を、枝で二回ほど軽く叩いて言う。
「スペル型は、能力者が決められた呪文を発するだけで魔法の効果が現れる…だが、お前が唱えたのは上級魔法の呪文だ」
今度は、『上』『中』『下』の三字が書き足された。
「つまり?」
「魔法が高等になればなるほど、莫大な魔力を使用する。逆を言えば、いくら呪文を唱えたところで魔法に相当する魔力がなければ、発動はしない」
困惑するロイスに対して、ヴァルは詳しく述べた。
「無意識で上級魔法が使えるということは、実際はもっと…」
サラが意味を理解して、瞬きを繰り返した。
「ああ。ロイスの秘めている魔力が、強大だということだ。ただし、過信するなよ。魔力の使用は体力や精神力を奪われるからな」
鋭い眼差しで、ヴァルが注意を促した。
「うん…」
ロイスは、自分の腹部の衣服を両手で握りしめた。
「…使い方さえ間違えなければ、お前の武器になるということだ」
すっかり深刻になってしまった空気に、ヴァルは溜め息をついた。
「ありがとうございます」
サラが礼を述べて、穏やかに微笑むとロイスの背に手を添える。
「?」
訝しげに、ヴァルが少女の方に向いた。
ロイスは顔を上げてサラを見遣ると、はっと気付いた。
「ありがと、ヴァル!不安なこともあるけど俺、ちゃんと使いこなせるようになるからっ」
にこにこと満面の笑みを浮かべ、前向きな意思を示す。
「…礼を言われるようなことではない」
居心地が悪くなったのか、ヴァルは視線を外して周囲を片付け出した。
ロイスとサラは顔を見合わせると、再び笑って支度を始めた。
昼下がりの暖かな陽が、ロイスたちを包んでいたーーー