第6話「王家の因果」
――――外は陽が沈み、室内では暖炉の炎がちらちらと揺れる。
助けられた経緯を理解したロイスは、ヴァルの端正な顔つきを目に据えていた。
「聞きたいことがある」
不意にヴァルから切り出され、ロイスの面持ちが張りつめる。
「その剣、鍔に刻まれているのは王家の紋章だろう。お前は、何者だ?」
ヴァルは、寝かせてあるロイスの武器を指差して尋ねた。
古くも荘厳さを失わない、月を象った紋がきらめいている――――
「大丈夫よ」
押し黙ってしまったロイスを、サラが頷いて肯定した。
促されたロイスは意を決し、己の拳を握る。
「俺は……ウィンスレット王家の者です。本当の名前は、レン・ウィンスレットっていいます」
緊張感に声を震わせながら、身分を打ち明けた。
ヴァルの視線を真っ直ぐに受け取り、しばし見つめ合う。
「ウィンスレット王家は、十数年前に女王が退位して以来、後継者がいなかったな」
ヴァルが片膝を立てて、ふーっと息を吐き出した。
「その女王が母親です。物心つく前に養子に出されたから、俺は憶えてませんけど」
ロイスは、付け足すように説明した。
「母親を捜しているのか?」
様子を見ながら、ヴァルが質問を投げかけた。
「捜したい気持ちはあります……でも俺、今はそれよりも……っ」
ロイスは言葉を詰まらせ、途端に瞳が揺れ始めた。
心情を察し、その片腕にサラが手を添えた。
「そうか……」
ヴァルは、翳りを帯びた二人の表情で悟り、追及をしない。
「試すような真似をして、つらいことを思い出させたな。すまない」
目を伏せて謝意を述べると、ロイスもサラもわずかに顔を上げた。
(やさしいヒトだ)
気遣いを感じ、ロイスはほっと胸をなでおろす。
「これも何かの因果か」
突然口にしたヴァルの一言に、ロイスは聞き逃さず首を傾げた。
「彼女から聞いたんだが、俺もお前とまったく同じ夢を見ている」
「えっ……?!」
ヴァルが静かに語り、ロイスは驚いた。
「そして俺は四年前まで、クローゼ王家に仕えていた」
ロイス達から視線を外し、ヴァルが天井を仰いだ。
「クローゼ王家は滅亡した。女王も、俺の父である将軍も、今は亡い……」
続けて明かされたヴァルの素性については、サラも初めて聞く様子であった。
「女王には二人の姫がいたが、二人とも落城で行方不明になった。俺は姫たちを捜して旅をしている」
その声から、ヴァルの強い意思がのぞく。
ロイスとサラは、真摯な態度でそれを受けとめた。
(一緒に旅、したいな)
「あの、提案したいことがあるんですけど……」
申し出たロイスに、ヴァルが顔を向ける。
「一緒に行きませんか、だろ?」
ヴァルの問いかけに対して、ロイスは身体をびくつかせた。
「なんでー?!」
「お前、顔に出てるぞ」
混乱しきったロイスに、ヴァルが冗談めいて返した。
「ふふっ」
サラは、くすくすと笑っている。
「俺も同じことを考えていたからな。よろしく頼む」
短く一礼して、ヴァルが快諾した。
ロイスは喜びに満ちた目を、サラと見合わせた。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
弾むような声色で、ロイスが挨拶をして右手を差し出した。
「ロイス、不慣れな敬語はやめたらどうだ」
握手しながら、口元をおさえて瞬きを繰り返すロイスの反応に、ヴァルは僅かながらに笑った。