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第5話 「旅の剣士」

サラはロイスを守るように体勢を低くして、その姿を見遣った。


それは肩まで伸びた黒髪の、マントを身に付けた青年であった。


ギャアア、ギャアアァーッ


のたうち回りながら飛ぶモンスターが、青年に対して敵意を向けていた。

青年は腰の洋刀をスッと鞘から抜き、ロイスとサラから少しずつ距離をとっていく。


「秘めたる地熱よ、我が諸刃の糧となれ」

足下の地面にひびが入り、洋刀はたちまち赤銅色の光を帯びた。


――――そして、飛びかかってくるモンスターへ投げつけられる。

刃が獲物の身体を深く突き、白い煙を発生させる。


グウゥアアァーー


くぐもった鳴き声を上げ、モンスターは地へ墜ちた。

次第にその体躯が、もやへと変化してゆく。

「終わりだ……」


がしゃん、と金属音がした時には、モンスターは跡形もなく消え去っていた。

青年は実に淡々とした様子で、武器を拾いに行く。

「――ひどい傷だな」

鞘に洋刀を収め、青年がしゃがんでロイスの怪我を観察した。

「どうしたら……」

荒い呼吸を反復してながら気絶しているロイスを、サラが見つめる。

すると青年は、ロイスの傷口に両手をかざし、眼を閉じて小声で何かを呟き始めた。

「……?」

青年の動きにサラが注目していると、暖かい輝きがロイスの左肩を包み込んだ。

安らかな吐息に変わり、ロイスは眠っている。

「今のは……?」

「魔力を使って、少し傷を癒しただけだ」

サラの疑問を端的に答えた青年が、ロイスの身体を肩に担ぎ上げる。

「この先、すぐ下りた場所に山小屋がある。行くぞ」

ルートを指差すと、軽快な足取りで歩き出した。

サラは慌てて、その後を追いかけた。




うっすらと目を覚ますと、丸太の天井が広がっていた―――


ロイスは瞬きを何度か繰り返し、うろたえて跳ね起きた。

「いってぇ!」

痛みを感じて顔をしかめ、左肩を押さえてうずくまった。

ふと、傍らに一つの気配がした。

「ロイス……」

視線を向けると、切なげな表情のサラが背中をさすってくれた。

「よかった……よかっ……」

安堵して、サラは堪えられずに泣き出す。

「心配かけてごめん。もう平気だよ」

ロイスが穏やかな眼差しで答えると、サラは首を横に振った。

「違うの……謝らなきゃならないのは私、何も……何も、できなくてっ」

止めどなく涙を溢すサラの頭を、ロイスは優しく撫でた。

「俺のこと、護ってくれたじゃん。ちゃんと聞こえてたよ。ありがとう……」

片腕で引き寄せ礼を言うと、サラが俯いて遠慮がちに身体を近付けてくる。

その確かな存在に、ロイスもほっとして息をついた。


ぎぃぃ、と古びた扉の音がした。

「気がついたか」

割木を手にして、一人の青年が部屋へ入ってきた。

ロイスは戸惑いながらも、軽く項を垂れて会釈する。

「あのっ……」

「お前のことは彼女から聞いている。ロイス・レイナー」

言葉に迷っていると、青年が簡潔に告げた。

明らかにサラへ視線を向けて――――


「サラのこと見えるんですか?!」

ロイスは驚いて、声高に尋ねた。

話題の当事者であるサラが、思わず目を丸くする。

「ああ」

短く返答し、青年は手際よく暖炉に薪をくべると、床に置いてあった小箱を取る。


「俺は、ヴァル・シェルド。一人で旅をしていて、たまたま通りかかってな」


――ヴァルと名乗る青年は、マッチを擦って火を点した。

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