第58話
襲撃事件から半刻が経ち、ロイス・サラ・ガイ・ナヒロの四人は宿へと戻ってきた。
「おっかえり~」
ドアを開けると、間延びしたような口調のトゥルースが迎えた。
「ただいまっ」
ロイスは弾んだ声で返し、笑顔を浮かべた。
「お怪我はありませんか?」
「うん、何ともないよ。みんなも無事みたいだね」
案じてくれるサラに、トゥルースは口元をほころばせた。
「ヴァルはまだ帰ってねぇのか?」
室内を見回していたガイが尋ねた。
「そうなんだよね。下手に出てって入れ違いになったら困るからさ。動くに動けなかったんだ」
顎に指先を当てて、トゥルースは首を傾けた。
「何かあったのでしょうか」
「俺、探してくるよっ」
心配の声色のナヒロに対し、ロイスはすぐさま行動を移した。
ドアノブに手をかけた瞬間、予期せず扉が向かってきた。
「ぶあっ!」
ロイスは扉を顔面で受けとめ、すっとんきょうな悲鳴を上げる。
「…いたのか」
わずかな間の後、ヴァルが平然と言い放った。
「お、帰ってきたな」
何事かとガイが歩み寄ってきて、ヴァルに気付いた。
「いったぁ…」
「大丈夫?」
鼻を押さえて顔をしかめるロイスを、サラが慰めた。
ヴァルは素知らぬ顔で、部屋の奥に入ってゆく。
「おかえりなさい。みんな、貴方の心配していたところでした」
ナヒロはほっとした様子で微笑んだ。
目だけで答え、ヴァルが腰から洋刀を抜き取る。壁に武器を立てかけた時、左手首を誰かに捕らわれた。
「…ちょっと来て」
トゥルースは深刻な声色でヴァルを引っ張った。
一同の視線が二人へ集まった。
「どうかしたの?」
「ヴァルと話したいんだ。少し出てくるね」
心配そうに尋ねるロイスに、トゥルースが肩を優しく叩いた。
「頼んだぜ…」
ガイが、目の前を通り過ぎるようとするトゥルースにだけ呟いた。
こくりと頷き、トゥルースはヴァルを連れ立って出て行った。
「何の用だ」
ヴァルは手首を掴まれたまま、屋上へと辿り着いた。
その時、ぐいっとトゥルースの方に身体が引かれた。
「っ…!」
「やせ我慢して…隠しきれると思った?」
苦しげな表情に変わったヴァルを、トゥルースは支えながら追及した。
「水で洗い流して誤魔化そうとしたって無駄。血の臭いが残ってる」
マントで覆われていたヴァルの左腕を暴く。
上腕部の衣服はざっくりと刻まれ、布地が薄く汚れている。その隙間から血の滲む裂傷がのぞいていた。
「ガイも感づいてたよ?わかってたから、ボクに任せてくれた」
マントを剥ぎ取り、トゥルースが傷の具合を確かめる。
「弱みを見せたくないのかもしれないけど…もっと頼ってよ。ボクたち、何のために一緒にいるの?」
ヴァルの左腕にすがってトゥルースは項垂れた。
「…すまなかった」
一瞬目を伏せ、ヴァルは空いてる右手でトゥルースの頭を撫でてやった。