第55話
少年の質問に、トゥルースの肩が一瞬だけ動いた。
シュッ―――
少年が灰色の球体を投げつけ、煙幕を発生させる。
反射的に顔を伏せたトゥルースは、たちまち白煙に包まれた。
「本当はアナタも、誰かの光に導かれたんじゃないですか?」
彼方遠くから聞こえるように、少年の声が響いた。
トゥルースは辺りを探るも、少年の位置を把握できない―――
「今日は退かせてもらいます。また、お会いしましょう」
煙幕が冷たい風に流された時には、少年の姿はすでに失せ、言葉だけが残った。
「ロイス…」
俯きながら、トゥルースが切なく呟いた。
ギィィーン―――
金属音の反響と同時に、互いが距離をとった。
ヴァルもエイセキも息を上げ、鋭く敵を見遣っている。
「細っこいくせに、意外と力あんじゃねーか」
エイセキが、にやりと笑みを浮かべた。
敵を睨み据えたまま、ヴァルは黙っている。
「俺には勝てねーけどな!」
強気に言い放ち、エイセキが俊敏に踏み込んだ。
「く…っ」
ヴァルは即座に身を翻したが、逃げ遅れた髪がわずかに切り落とされる。
はらりと数本の黒髪が宙を舞い、水浸しの地面に浮かぶと、ゆらゆらと漂った。
たじろいだヴァルに構わず、勢いのままエイセキは斬り掛かる―――
ズシュッ―――
「ぐっ…ぁ…」
左上腕部をシミターに切られ、ヴァルは顔をしかめた。
傷口からどす黒い血が流れ、何本もの道を作ってだらだらと腕をたどってゆく。
「勝負あったな…」
いつの間にか背後へ移動したエイセキが、血の付着した刃をヴァルの首筋に宛がう。
「選ばせてやる」
肩で息をするヴァルへ、エイセキは語りかける。
「服従か、死か…二つに一つだがな」
残酷な言葉と共に、シミターの柄を握り直す。
ヴァルは力を無くした左腕を下げ、右手で洋刀を持っている。
「俺は、お前らの仲間になどならない…」
武器の切っ先を地面へ向けたまま、敵へと振り返ることもせず、落ち着き払った低音で答えた。
「へっ…この状況でも命乞いしねーとは、随分と強情なこった」
半ば呆れたように、エイセキは吐き捨てる。
「命を粗末にすんなよ。生きていてこその、プライドだぜ?」
シミターがヴァルの首の皮膚をかすかに傷付け、少量の血液が肌を伝って鎖骨へ流れ落ちる。
ヴァルは微動だにせず、沈黙を守っている。
「テメーみてぇな危険分子を、見逃すわけにはいかねー…悪いが、潰すぜ!」
エイセキは一際声を張り上げ、シミターの持ち手へ力を込めた―――