第52話
「こそこそ人を観察しといて、いきなり攻撃してくるなんて、卑怯なんじゃない??」
トゥルースは刃を向けたまま、金髪の少年へ投げかけた。
「隠れていたことは謝ります」
それに対し、少年は淡々と詫びる。
「でもアナタなら、確実に避けられると思いました」
少年の翡翠色の瞳が、冷たくトゥルースを見つめた。
トゥルースは空いていた左手に、もう一振りのブーメランを取る。
「ボクの実力、わかっててケンカ売ってんなら…子どもだろうと容赦はしないよ」
威しをかけるような低音で、少年へ言った。
ヒュオォォ―――
無言で対峙する二人の間を、北風が鳴きながら走り抜ける―――
「っ!」
先に仕掛けてきた少年の分銅を、トゥルースは半歩だけ身体をずらして避けた。そしてそのまま、少年の身体へ目掛け、真っ正面から駆け込む。
「?!」
少年は一瞬ひるんだものの、すかさず鎖を引き、分銅を戻し始めた。
するとトゥルースが、即座に片足で踏み切って宙へ跳ね上がる。
「ハッ!」
鎖が少年の手元へ返るのを見計らい、二刀のブーメランを投げつけた。
回転しながら迫った凶器を、少年は残像が浮かぶほどの速さで、後方へかわす。
「…なかなか、楽しませてくれそーじゃん」
交差して戻ってきた武器を掴み、無音で着地したトゥルースが、にやりと笑った。
「もはや我らに、一刻の猶予もない」
アルジェの髪と衣が、風に惑うのをやめ、静止した。
「何故、そんなに急いていらっしゃるのです??」
相手の様子を警戒しつつ、ナヒロは慎重に問う。
表情を変えず、アルジェがナヒロを見つめ返した。
「…貴様に教える必要はない。とにかく、我らの邪魔だてをするな」
少しの間をおき、命令口調で告げる。
ナヒロはため息をついて、両手を天へ翳した――と同時に、紅く透き通った結界が頂点から徐々に消えてゆく。
「ワタクシとて、できることならば闘いたくはありません。しかし、破壊行為を黙って見過ごすわけにもまいりませんわ」
凜とした眼差しで、アルジェに訴える。
その時―――
「そこまでだ、アルジェ!」
一際威勢のある声が、張り詰めた空気に割り込んだ―――
「貴様…」
アルジェは目線をナヒロから外し、屋根の上へと降り立った人物へ移した。
「今日こそは、逃がさない!」
宙に浮かぶアルジェへ、降り立った人物――ロイスが剣を構えている。
―――バタンッ…
「わりぃな、遅くなっちまって」
ドアを厳めしく開き、ガイが居間へと現れた。
わずかに驚いたナヒロは、そちらへ視線を向ける。
「お待ちしておりましたわ」
仲間の姿を確認すると、ようやく安堵したように微笑んだ。