第51話
「お前が犯人か」
身構えたヴァルは、確信の問いかけを投げる。
「まあな。俺としては、もっと豪快にやりたかったんが…命令に背くわけにはいかないんでね」
青年が、水を撥ねさせながら歩み寄ってきた。
「命令とは、誰のだ」
左足を半歩、ヴァルは後方へ動かす。
すると、青年が仏頂面で立ち止まった。
「質問責めかよ…だりぃな」
あからさまに大きく息をつき、腕組みをしている。
「俺の名はエイセキ。ディスト様にお仕えする者だ!」
エイセキと名乗った青年の言葉に、ヴァルは目を見開いた。
「今日は、アルジェの命令で魔族捜しに来た…お前のような者をな」
にやりと笑うエイセキが、腰から下げたシミターの柄を握る。
「ディストに従うか否か、だろ」
ヴァルは俯き、洋刀の持ち手に力を込めた。
今度はエイセキの方が驚き、目を丸くした。
「多くの人々を殺め、尚も破壊を繰り返す…お前らを許すわけにはいかない!」
顔を上げ、ヴァルは一気に間合いを詰め、エイセキに斬りかかる。
双方の刀身が合わさり、『キィン』と音を鳴らした―――
「…お前、ディノナバでアルジェに出くわした一味か??」
刃を交えたまま、エイセキが問う。
ヴァルは答えず、一度エイセキ側へ刀身を押しつけてから距離をとった。
「まあ、どっちでも構わねぇが…一つ、教えておいてやるよ」
エイセキが、左手の人差し指を立てて見せた。
「『大義のためには犠牲もやむなし』…てな」
「っ!!」
エイセキの発言で、より一層ヴァルの闘気と殺気は高まった。
「そう怒るなよ。俺は、『無駄死に』って言ってるわけじゃないぜ。『尊い犠牲』だと思ってるさ」
飄々とした態度で、エイセキが語る。
ヴァルは重心を低く、洋刀を再び敵へと向けた―――
同時刻…
「あーあっ!こりゃひどいなぁ…」
公園へ到着したトゥルースは、土台ごと倒れた銅像を憐れんでいる。
―――町の外壁が突き破られ、そこから延長線上の地面は数十メートルに渡ってえぐれていた。
「何がしたいのか、ぜんっぜん理解できないなー」
トゥルースが独り言を言い、顎に手を当てる。
しかし辺りに人の姿はなく、声だけが空しく鮮明に響いた。
「だから教えほしいんだよねぇ…隠れてないでさ」
腰に付けたケースから、素早く一振りのブーメランを取り出す。
しんと静まり返った雪景色の中、針葉樹の脇で朧げに小さな影が動いた。
その刹那、鎖に繋がった分銅がトゥルースの手元を目掛けて飛んでくる―――
「っ!」
トゥルースは後ろへ跳ね退き、難無く攻撃をかわす。
空を切った分銅が、軽やかに引き戻される。
「強いヒト、見つけました」
分銅を垂らした鎖と鎌を掴み、幼い金髪の少年が現れた―――