第4話 「戦いの始まり」
ロイスとサラは、大陸・セレネを二つに分断するペンガロ山地を歩いていた。
道は旅人の通行用に、多少の整備がほどこされている。
「魔物がいなきゃ、もっと人に会うんだろうな~」
辺りを見回したロイスは、呆れたように言った。
人の気配はないが、獣のうなる声が四方から聞こえてくる。
「ロイスは……怖く……ないの?」
怯えながら後に続くサラは、ロイスに問う。
背負っている剣の柄に手をかけ、ロイスの眼光が鋭くなった。
「――もう慣れた!」
言葉と共にロイスは駆け出す。
その正面から、虎に似たどう猛な白い魔物が現れ、迫ってきた。
ロイスは剣を引き抜き、牙を見せ突進してくる猛獣の頭へ、刃を一気に振り下ろした。
「ごめんね。俺、食われたくないから」
剣を押し戻したロイスが、憐れむ口調で獣を見つめた。それと同時に、魔物は鮮血を流しドサァと倒れる。
腰の麻袋から布を取り、ロイスが剣についた血を拭いた。
「大丈夫?」
向き直って尋ねると、サラは強張ったまま口元に手を当てている。
「ええ。……ちょっと、びっくり……しただけ」
サラが俯いて告げると、ロイスはその指をそっと掴んだ。
「そっか、普通怖いよな……よし、早く行こう」
獣の亡骸から離れるため、サラの手を引いて歩き出す。
砂利を踏みしめ軽やかな足どりのロイスに、サラはわずかに寄り添った。
「あっ!あそこ、てっぺんじゃん?」
興奮して声上げたロイスが指差す先は高く、道が果てているようにみえる。
上を目指して歩き続け、二人はとうとう山地の頂点へ登り着いた。
開けた頂から、遠くの町や森、限りのない海を一望できる。
「すげー!」
「きれい……」
感動を口にするロイスの横、サラも頷いて目を細めた。
しばし、美しい景色に心奪われていると――――
――――バサッバサッバサッ
二人の背後に、羽音が響き風が起きた。
「わぁっ!」
煽られたロイスとサラは、間をあけず振り向く。
「きゃっ」
いつ程にか、巨大な鳥型のモンスターが両翼をはばたかせ、狙いを定めている。
後ずさるサラをかばいながら、ロイスは警戒姿勢をとった。
(まずいっ!隠れられるトコがないっ)
周辺には盾になるような岩場がなく、完全に無防備である。
威嚇するようにモンスターは空中を旋回し、一気に降下してきた。
「くそっ」
ロイスがサラを抱えて体当たりをかわすも、直後烈風が起こる。
「サラ!」
身体が飛ばされ、サラを放してしまい焦ったロイスは、敵の動きを一瞬失念した。
鋭利な爪が、ロイスの背後から襲いかかる。
「うあああぁぁーーっ!」
「ロイス!」
左肩を切りつけられ、悲鳴を上げたロイスのもとにサラは一目散で走った。
うつ伏せで倒れたロイスが、歯をくいしばる。
「サラ、逃げて……」
かろじて言葉を発して、力なく横たわる。
首を振り、サラの瞳が潤んだ。
ギャアアァーーー
モンスターの雄叫びで、空気が震えた。
(私が護らなきゃ……でも、どうすればっ)
サラはロイスに覆いかぶさり、固く目をつむる。
刹那――――
「射貫け、大地の鏃」
言霊のようなものが唱えられ、
グギャアアーーッ
モンスターは激しく絶叫した。
おそるおそるサラが空を見ると、モンスターの巨体に無数の尖った岩が刺さっている。
「――そのまま伏せていろ」
落ち着きはらった低い声が、サラへ指示した。