第48話
「そーいや…ナヒロはどこ行ったんだ??」
そわそわと部屋を見回してから、ガイは誰にでもなく尋ねる。
「ちょっと出てくるって行ったっきりだけど…遅いね」
トゥルースが首をひねり、心配そうに言った。
その時―――
『ピクッ』
ロイスは身体を一瞬だけ震わせ、眼を開ける。
「どうしたの…??」
反応を察知し、サラがロイスを見つめた。
しかしロイスは、一言も喋らずに起き上がり、窓の方へ歩み寄る。
「どうした」
ロイスの行動に違和感を持ったのか、ヴァルが問いかけた。
観音開きの窓を開放したロイスは、相変わらず無言である。
「何かが……来る」
仲間たちに背を向けたまま、曇り空を見上げてぽつりと呟いた。
「何かって何だよ」
いつになく張りつめた雰囲気に、ガイが困惑している。
サラの眉は不安げに垂れ、ヴァルが鋭い視線をロイスの背中へ向けた――刹那…
ズドゴゴゴォーン―――
「っ!!」
重なり合う三度の爆音と地鳴りに、一同は驚き身体をびくつかせた。
いち早くロイスが、傍らの己の剣を掴み取って背負い、胸の位置でバックルを止める。
「屋上から見てくる!!」
そう告げると、速やかに部屋を飛び出した。
「お、おい!!」
ガイは呼び止めつつ、ロイスの後を追いかける。
「行っちゃった…」
あっけにとられ、トゥルースが口元をわずかに歪めた。
「…ここでは状況がわからん。俺らも行くぞ」
一瞬だけ窓の外を眺めたヴァルは、腰の洋刀を携え直す。
―――屋上から見渡せば、町の中心地点と町を取り囲む外壁の両端が、灰色の煙に包まれていた。
「うそ…だろ…」
ロイスの隣で、ガイが蒼白な顔に変わる。
サラ・ヴァル・トゥルースは、一歩後ろから四方を窺っていた。
「あの辺、何があるの??」
町の中央付近を指差し、ロイスが目をこらしている。
「町長の…ルドルファンの屋敷だ」
歯を噛み締めるガイは、拳で前方の鉄製の柵を強く叩いた。
「くそぉ!!」
「落ち着け」
興奮気味なガイを、ヴァルが引き止める。
「うっせぇ!!屋敷にはゼオも、オフクロもいんだ!!」
ガイは振り返り、ヴァルの胸倉を両手で掴んで怒鳴った。
「ここからだと、屋敷までそれなりの時間がかかる。つまり、お前の弟はまだ屋敷へ戻ってない可能性もある…それに、よく見てみろ」
冷静な物言いのヴァルが、目線だけを屋敷の方向へ移す。
「あの赤い光は…ナヒロさんの結界ですね」
サラが煙の中に漂う朱色の輝きを発見し、頷いた。
「ナヒロなら、屋敷全体を守れるくらいの結界を張ってくれてるだろうね。だからガイは、焦らないで、弟くんを捜しながら屋敷に行けばいいよ」
ガイの肩に手を置いて、トゥルースは笑みを浮かべる。
すると押し黙っていたガイが、ようやくヴァルの服から腕を離した。