第47話
別室へと移ったロイスたちは―――
「ガイ、嬉しそーだったねっ」
ロイスの口元が、ふっと綻んだ。
「ええ。きっと、仲の良い兄弟だったのね」
サラは目を細め、相槌をうつ。
「…ワタクシ、少し出て参りますわね」
何やら考えついたのか、ナヒロがすくっと立ち上がった。
「えっ??」
「すぐに戻りますわ」
ロイスの疑問詞へ笑顔だけ返し、早々に部屋を出て行く。
「あ、ナヒロっ」
慌てた様子で、ロイスは追いかけようとした。
「…何かしら思うところがあるんだろう。放っておいてやれ」
ヴァルがロイスを制し、備え付けのソファーへ腰掛ける。
「まあ…ナヒロなら、大丈夫だろねー」
顎に手を当て、トゥルースは賛同した。
「何でー??二人とも心配じゃないのっ??」
納得できないらしいロイスが、興奮してガラステーブルへ両手をつく。
「…どっかの誰かと違って、ナヒロは無鉄砲じゃないからな」
些か呆れたような表情で、ヴァルは答えた。
「どっかの誰かと違ってねっ」
トゥルースが腕を伸ばし、ロイスの鼻先を軽く摘む。
「う゛ーっ」
唸り声を上げるロイスは、トゥルースの手から逃れようと頭を振った。
それから、約一時間後―――
「悪かったな。気ぃ遣わせちまって…」
ロイスたちの部屋へと来たガイが、照れくさそうに礼を言う。
「全然平気だよっ。てか、もっとしゃべっててよかったのにー」
トゥルースは、にこやかに応じた。
「長い時間家抜け出してんのバレちまうと、やべぇからな…」
苦く笑ったガイが、一つ深い息をもらす。
「…この宿にいると、よくわかったな」
沈んだ空気を察し、ヴァルは話題を転換した。
「アストンのヤツが、こっそりゼオに教えたんだと。ヤツの情報網は半端ねぇからな」
ガイが自らの髪を混ぜ、片眉を引き上げる。
「アストンさん…先程、町長様と一緒にいらっしゃった方ですね」
名前から人物を思い出し、サラは確かめるように呟いた。
「ああ」
サラへ視線を投げ、ガイが短めに頷く。
「つーか、さっきから気になってんだけどよぉ……ソレ、どーしたんだ??」
ガイの指先は、ベッドに座っているサラの方――正確には、サラの膝枕で身体を丸めて眠るロイスを差した。
「あ、あのっ、これには訳が…」
明確に指摘され、先刻まで平静であったサラが焦り始める。
「ボクたちはいつも通り、ロイスをからかってただけだよー??」
別段悪びれることもなく、トゥルースは説明した。
「からかっていたのは、お前だけだ」
ヴァルがすかさず、弁明を加える。
「元はと言えば、ヴァルの嫌味から始まったんじゃんっ」
「嫌味など言っていない。日頃の行動を慎むように注意を促しただけだ」
「おいおい…」
トゥルースとヴァルのやり取りに、ガイは取り残される。
「大体さ、ヴァルは説教くさいんだよっ。ロイスの気持ちを理解してやりたいって言ってたのは、嘘だったわけー??」
口を尖らせつつ、トゥルースが食い下がった。
「常識やモラルの範囲で、理解にも限度があるだろう」
まったく動じないヴァルは、淡々と反論してみせる。
「…つまりアレか。ウチの嫌味2トップの攻撃でロイスが拗ねて、おめぇに泣きついたっつーワケか」
ガイが介入を諦め、サラに話しかけた。
「ええ、まあ…」
遠慮がちに、サラは肯定の意を示す。
その膝の上で、変わらずロイスが安らかな寝息を立てていた―――