第43話
雪深き町・ウォンズ―――
周囲およそ6キロの楕円を描く、広大な町。
赤レンガで舗装された道の両脇には、掻き分けられた大量の雪が積もる。
商店も住宅も全て、寒気を防ぐ重厚なレンガ造りであり、各々煙突が設置されていた。
公園では子どもたちが雪に構わず走り回り、笑い声を上げる。
「へぇ、いいトコじゃん」
トゥルースは、素直な感想を言った。
「寒さに負けず…皆さん生き生きとされてますわ」
雪掻きに励む男たちに目をやり、ナヒロが頷く。
「観光地として栄え、経済的に豊かだからな」
ガイと共に先頭を歩くヴァルは、説明してみせた。
「そういえば…先程、『雪祭り』の案内がありましたね」
「『雪祭り』?!」
サラが思い出したように告げると、ロイスは過剰な反応を示す。
「すげー楽しそーっ」
「ロイス…『雪祭り』が始まんの、一週間後だぜ??」
盛り上がるロイスへ、すかさずガイが教えた。
「えーっ?!」
ロイスは、不満げな声を出す。
「…ボクたち、そんなに長居できないよね」
心苦しそうに、トゥルースが呟いた。
「情報収集が終わり次第、町を去ることになるな」
ヴァルから目的を再確認させられ、ロイスはあからさまに肩を落とす。
「全然時間がねぇわけじゃないんだからよぉ。散歩でもして、町の雰囲気味わっとけよ。なっ??」
歩調を緩めたガイが、ロイスの頭に軽く手を置いた。
「…うん」
口惜しい思いを堪え、ロイスは返事をする。
それから約一時間後―――
一行は、中心街からは離れた旅人向けの安価な宿への宿泊を決めた。
ロイス・サラ・ナヒロの三人が散策に出かけると、残る三人は一室に集まった。
「アイツ…少しは気ぃ治まるといいな」
ソファーで寛ぎ、ガイが苦笑する。
「ああ…」
対面にいるヴァルは、相槌を打ってから温かい紅茶を飲んだ。
「ロイス、本当に悔しそうな顔してたもんね」
トゥルースが紅茶にミルクを入れ、スプーンでかき混ぜている。
「…本来なら、遊び盛りの年頃だからな。無理もない」
一息つき、ヴァルはソファーへ浅く座り直し、前屈みの姿勢に変わる。
「意外と…理解あるじゃねぇか」
わずかに驚きつつ、ガイがヴァルを見遣った。
「近頃よく考える…ロイスは自ら望んで今の状況を選んだわけではない。村を襲撃されず、己の出生を知らずにいれば、今も幸福に暮らしていたのではないか…とな」
ヴァルは膝に両肘を乗せ、指を組み合せる。
「…確かにな。アイツ、相当辛い目に遭ったんだったよな。いつもの調子からじゃ想像つかねぇぐらいに…」
眉間に皺を寄せ、ガイが目を伏せた。
「…前に、サラが言ってた。ロイスはどんなことがあっても絶対泣かないし、いつも明るく振る舞おうとするから…時々不安になるって…」
手を止めたトゥルースは、悲しげな口調で語る。
「宿命を背負い、現実に立ち向かうのは過酷だ。それをロイスは、必死に乗り越えようとしている…」
ヴァルの眼差しが、真摯な光を増した。
「だからせめて、アイツが感じる楽しさや喜びを理解してやりたいと…俺は思う」
握った手に力を込め、続けて話す。
「…ヴァル、変わったね」
トゥルースは、口元をほころばせた。
「なんかこう…素直になったっつーか、丸くなったっつーか」
ガイが、歯を見せて笑っている。
二人からの指摘で、急に極りが悪くなったのか、ヴァルは顔を背けてしまうのだった―――