第42話
「雪だぁー!」
雪原地帯に踏み込み、ロイスが感激の声を上げ、一行より先へ駆け出した。
「アイツは何でわざわざ、歩きにくい所を歩く…」
半ば呆れたような口調で、ヴァルは呟く。
ロイスが歩行しているのは踏み固められた雪道ではなく、膝上まで埋まる程の積雪場所である―――
「雪に沈むのが、楽しいみたいですよ」
サラは、ロイスの歩く様子を見ながら笑った。
思わず、ヴァルがため息をつく。
「ありゃ後でぜってぇ足冷えて、『寒い!』って言うぜ」
愉快げに語るガイは、片眉をつり上げた。
「何でロイスあんな元気なのー??ボクこの寒さ、無理かも…」
港で防寒用のマントを入手したものの、トゥルースが震えている。
「…これ、使え」
ヴァルは、トゥルースへ小さな白い布袋を差し出した。
「何これ??」
「カイロってんだ。摩擦を起こすと、暖かくなるんだぜ。寒い地域の必需品だな」
トゥルースの疑問に、ガイが難無く答える。
「へぇ…面白いねっ」
「ワタクシも、初めて見ましたわ」
カイロの話は、トゥルースだけでなくナヒロの関心もひいたようだ。
ナヒロがまじまじと、カイロを眺める。
「ガイなんか、寒い地方のこと詳しいよね。コレ買う時も、どーゆーのがいいか知ってたみたいだし」
マントの端をつまみながら、トゥルースは引っ掛かりを口にした。
「え…ああ、まあなっ」
うろたえたガイが、頭を掻き始める。
「…確か、船の乗組員から聞いたんだったな」
ヴァルは、思い出したように言った。
「そ、そうなんだよ。船の連中と気が合ってよぉ。いろいろ教えてもらったんだよっ」
「ふーん…」
ガイの返答に、トゥルースが納得していないかのような反応を示す。
「…トゥルースー!雪当てしよーよー!」
感情高ぶるままのロイスは、前方から手招きで呼んだ。
「あ、うんっ」
トゥルースが誘われるままに、ロイスの所に走る。
サラとナヒロは微笑み合って、ゆっくりと二人に続いた。
「…わりぃな。気ぃ遣わせて」
左手を顔の前に立て、ガイが小声で謝る。
「構わん。フォローが必要になるのは予測していた」
至って平静なヴァルは、雪と戯れるロイスたちへ目をやっていた。
「…事情があるなら致し方ない。気にやむな」
素っ気なく言ってのけると、雪道を歩き始める。
「…ありがとな」
ヴァルの背中に向かって、ガイが小さく感謝の意を述べた。