第39話
デッキでロイスの戦闘を見ていた一同の誰もが、息をのんだ。
目が眩むほどの閃光は、ロイスの姿をも隠している。
「おいおいっ。一体何だってんだっ」
不思議な現象に驚き、ガイがうろたえた。
「…ロイスの力なのではないですか??この落雷は、おそらく上級魔法の効果ですわ」
間をおいてから、ナヒロは考えを述べてみせる。
「でもロイス、詠唱呪文なんか知ってたのかな??」
トゥルースが、率直な疑問を呟いた。
マリンサーペントの巨体からは黒い煙が立ち、鱗の焼ける独特な臭いが充満した。
やがて、その身体は崩れるように分解され、消えゆく。
残ったのは空中に浮かぶ雷光の塊だけであり、雲間から徐々に太陽が覗くと、それは次第に存在を失われ、人間の外見を取り戻しながら降下する―――
「ロイスっ」
サラが悲鳴のような声色で、身を乗り出した。
脱力しきったロイスの身体は、無抵抗のまま海へと落ちる。
「…ガイ、梯子を用意してくれ」
サラを押し止めながらマントを脱ぎ捨て、ヴァルはデッキの縁を難無く飛び越えていった。
「っ……」
小さな唸りと共に、ベッドに横たわるロイスが少しずつ眼を開ける。
斜め下から見上げるような位置に、ぼんやり人の姿を捉えた。
「…気が付いたか」
ロイスの覚醒に反応し、人の姿――ヴァルは話しかける。
「あれ…??俺…」
記憶を手繰り寄せようと、ロイスが思考を巡らした。
その時、部屋の扉が勢いづいて開く―――
「おうっ。目ぇ覚めたかっ」
ガイは、大股の足音でロイスに近付いてきた。
「静かにしろ。トゥルースはまだ眠ってるんだ」
眉間に皺を走らせたヴァルが、ガイを咎める。
「あっ…わりぃ」
本気で失念していたらしく、ガイは素直に謝った。
「トゥルース…大丈夫なの??」
ロイスが、上半身を起こしながら隣のベッドを見つめる。
そこには、深い寝息を立てるトゥルースがいた。
「ああ。魔力を消耗して疲れているだけだ。直に目覚めるだろう」
冷静な口調で、ヴァルは状態を説明する。
「そっか…よかったっ」
ほっと安堵したロイスが、トゥルースを見ながら微笑んだ。
「あの後、大変だったんだぜっ」
ガイは遠慮なく、ロイスの足元の辺りに腰掛ける。
「怪物倒したのはいいが、おめぇは海に落ちるし。トゥルースもナヒロも、ぶっ倒れちまうしよぉ」
「ナヒロも??」
苦笑いで語るガイに、ロイスが迫りつつ尋ねた。
「あれ程の結界を維持し続けて、魔力と精神力を大幅に削られたらしい。向かいの部屋で寝ている」
ロイスの肩を制し、ヴァルは詳細を教える。
すると、ロイスがベッドから足を出した。
「じゃあ俺、今…ぶっ」
顔面に向かって、掛け布団を被せられる。
「何すんのっ」
「ナヒロの様子なら、俺が見てくる。お前はもう少し休め」
すぐさま不服を訴えると、ヴァルはロイスの思惑を遮った。
「ガイ、頼むぞ」
「へいへい」
短い言づてを残して部屋を出ていこうとするヴァルへ、ガイが片手をひらひら振る。
そしてヴァルは、早々に退室していった。
「俺、もう平気なのにっ」
むくれるロイスが、扉の奧へと消えたヴァルに文句を言う。
「アイツなりに、心配してるみてぇだぜ??許してやれや」
ガイはフォローを入れ、ロイスの髪をかき回した。