第3話 「それぞれの決意」
自分の隣を歩く少年・ロイスを、サラは意識していた。
昨夜、語られた彼の境遇を思い返しながら――――
「小さい時に、親が事故で死んじゃってさ……俺、ずっと姉ちゃんと二人だったんだ」
簡易ランプの灯のもと、ロイスはぽつりぽつりと話し始めた。
「家族は二人でも、寂しくなかった。みんな優しかったし……村が焼かれて姉ちゃんが亡くすまでは……ね」
絞り出すような声と、今にも泣き出しそうな表情で続けた。
「家はめちゃくちゃになったけど、地下室は無事でさ。王家の古い本と、コレを見つけたんだ」
ロイスは、光沢を放つ上質な白銀の剣に触れた。
「俺が王家の子だっていうことが、もしかしたら役に立つかもしれない……村を、姉ちゃんを、奪った奴に辿り着けるかもしれないって思ったんだ」
最後に唇を噛み締め、悲しみと切なさを滲ませる。
「まあ、俺のことはそんなかんじっ」
明るく振る舞う姿は、かえって痛まさを増した――――
サラは、慰めることも出来ない己がもどかしく、腹立たしかった。記憶を失い、さまよい始めてから感じたことのなかった気持ちだった。
普段のロイスは底無しに明るく、辛い現実を感じさせない光があった。
どんなモンスターと対峙しても、臆することなく戦い、終わればまた、あどけなく笑う。
ロイスは、全てを受け入れ、今の自分の人生に立ち向かっている。負けるものかと、必死に闘い続けている。
彼の心の強さを、サラは悟った。
今まで先を悲嘆してばかりだった自分が、恥ずかしくなった。
進むべき道を自分自身で切り拓く、 ロイスのようになりたいと思った。
『俺と一緒に行こう』
その一言がどんなにサラを勇気づけ助けたのか、きっと彼は知らない。
(あなたが望むかぎり、私はどんな時も傍にいるから)
少し前をゆくロイスの背中に、ひそかに誓った。
「ん?どうしたの?」
サラの思いを知るよしもないロイスが、出遅れた少女に振り返った。
「なんでもないのっ」
にっこりと微笑み、サラは足を速めて少年へと追いついた。