第36話
「外で…なんかあったみたいだね」
ロイスは階段の上、屋外の様子を気にしている。
「行くしかねぇだろっ」
振動の終焉を感じたのか、ガイが立ち上がった。
厳しい顔のヴァルは、腰にある洋刀に触れる。
「良からぬ気配がする…注意しろ」
ヴァルの声掛けを皮切りに、ガイが階段を上り始めた。
ロイスとヴァルは、慎重なさまで後に続く。
ぎしぎしと床板を軋ませ、一同がデッキへ出た。
「…特に、変わったとこはねぇな」
静かな船上を見回し、ガイは口元を歪める。
ヴァルが目を閉じ、眉間に皺を寄せた。
「何かが…船の近くをうごめいている」
その発言で、ガイは肩をひくつかせる。
「こ、こっちだっ!!こ、こっから見てくれっ」
すると動揺に震える声が、ロイスたち三人の頭上から聞こえた。
「…今、行きますっ」
ロイスは帆柱の上部に位置する見張り台を確認し、付属の梯子を軽やかに登る。
そして、大人二人分ほどのスペースしかない見張り台に乗り込んだ。
「…っ!!あれっ」
じっと目を懲らしていたロイスが、唐突に声色を荒げる。
「何が見える」
険しい表情で、ヴァルはロイスに問いかけた。
「横に…船の真横に、なんか生き物がいるっ。すっごいでかいっ」
ロイスが、身を乗り出して海面を観察していると―――
波しぶきを切るように、巨大な黒光りの鱗が現れた。
蛇の如く体つきは、船の長さを裕に越えている。
「うおっ!!なんだありゃ!!」
思わず後ずさり、ガイが叫んだ。
「マリンサーペント…海蛇の一種だ」
対象的にヴァルは、冷静である。
見張り台の枠に足をかけ、ロイスがデッキへ着地した。
「俺、こーゆーモンスター苦手なんだよなぁ…」
それから頬を指で掻き、顔をしかめる。
「…ここにいたんだっ」
ロイスたち三人の背後から、トゥルースは駆けてきた―――ナヒロと、剣を抱えたサラを連れ立っている。
「ロイスっ」
「うん、ありがと」
サラから差し出された剣を、ロイスがしっかり握った。
「こんなもん…どーやって倒すんだよ」
ガイは困り果て、ぼそりと呟く。
「ヤツの食事になりたくなかったら、本気で戦え」
マリンサーペントの様子を警戒するヴァルが、洋刀の柄へ左手をかけた。
「それにしても特大だねー。もう一回ぐらいぶつかられたら、船壊れちゃうんじゃない??」
身体をうねらせる敵を眺めながら、トゥルースは悠長に言い放つ。
「とにかく、やってみるしかないねっ…サラとナヒロは下がってて」
ロイスが鞘から刃を抜き、マリンサーペントへ向けた。
「どうしてですの??」
疑問詞を浮かべ、ナヒロは場を退こうとしない。
「だって危ないしっ」
「ワタクシも、お手伝いしますわ」
それから、ロイスの意見に間髪容れず申し出た。