第31話
首長と呼ばれた人物は、神々しい石像から振り返る。
ナヒロよりも格段と露出を抑えた装束を着用する、腰の曲がった老女であった。
銀髪を飾る黄金の細い冠から、額の中心に雫型の赤い宝石が垂れている。
「私はこの村の首長、サユキ・レイゼイと申します」
胸前に手の平同士を合わせ、老女――サユキは深く頭を下げた。
一行も倣い、各々で挨拶する。
「貴方はもしや…『カンナギ』ですか??」
丁寧な言葉遣いで、ヴァルが切り出した。
サユキはゆっくりと、首を縦に振る。
「左様。博識ですな」
そして、短く肯定の意を示した。
納得したように、ヴァルが小さく頷く。
「あの、カンナギとは一体…??」
サラは、おずおずとヴァルへ質問した。
「ワタクシから、ご説明致しましょう」
胸に手を当てて申し出るナヒロに、一行がはっとなる。
「サラのこと、見えるんですねっ?!」
ロイスは興奮して、ナヒロへ詰め寄らんばかりであった。
「お嬢さんのことは、私もナヒロも最初から見えておりますぞ」
サラへ向けて、サユキが目を細める。
畏まったサラは、品よく会釈を返した。
「話を戻しますが…カンナギとは、神へ祈り仕ええ、神の預言を賜る者をいいます。ワタクシどものしきたりでは、カンナギが首長を務めることとなっております」
滑らかな調子で、ナヒロは述べる。
ロイスが物珍しそうに、サユキをまじまじと見ている。
「ちょっと、失礼だよっ」
咎めながら、トゥルースはロイスの服を引っ張った。
「だってさ、要はエルス・クローゼと話ができるってことでしょ??すごいじゃんっ」
感心するロイスが、無邪気に笑う。
すると、サユキとナヒロは口元をほころばせた。
「ボウヤは、素直な子じゃな」
「本当に」
ロイスへ温かい眼差しを向けたサユキに、ナヒロが相槌を打った。
「ワタクシが女神エルスより賜った預言について、お話しましょうか」
ロイスたち一行は、首長宅の長屋に宿泊することとなった。
「夢で繋がりし者たち、神の意志に背く者破るべし…か」
壁にもたれるヴァルは、うわ言のように呟く。
「夢で繋がる者って、ボクたちだよね??」
トゥルースが膝を抱え、首をひねった。
「ええ。ナヒロさんは、そうおっしゃってましたね」
賛同すると、サラは話を思い返している様子である。
「じゃあ、神の意志に背く者ってのは誰なんだ??」
胡座をかくガイが、疑問を提示した。
ロイスは唸り声が聞こえそうなほど、難しい面持ちをしている。
「…神の意志に背くかどうかは別として、ボクたちを殺そうとしたヤツならいたよね」
唐突に、トゥルースが険しい口ぶりで言い出した。
「ディスト…」
トゥルースの意図を悟ったように、ヴァルは名指す。
重たい沈黙が、一行を駆け抜けた―――
「考えるの、おしまいっ」
勢いよく、ロイスは主張する。
「俺、お腹空いちゃったー」
腹部をさすりながら、陽気なさまで訴えた。
拍子抜けして、他の四人が笑い出す。
「お前には、敵わんな」
「ホント。ボクも勝てる気しないよ」
ヴァルとトゥルースの声色は、すっかり明るさを取り戻していた。
「何がー??」
状況を理解していないロイスが、二人へ問う。
「いいんじゃねぇの??ムードメーカーってことで」
ガイはロイスの髪を、掻きまぜた。
その様子を、にこやかなサラが見守る。
「皆様。夕食の準備が整いましたので、食堂へお越しくださいませ」
扉代わりのカーテンを薄く開き、ナヒロは一同へ告げた。