第30話
ブルーオア港を出て約三日後の昼下がり、一行はルシア島に到着した。
島の周囲は五キロほどで、レイゼイ村という一つの集落が存在するのみである。
船着き場からすぐ、わずかに土手をせり上がると、高床の住居が端々に佇んでいた。
辺りは豊かな森に囲まれ、さわさわと風に泳ぐ木々の葉音が響く―――
「出発まで丸一日…どうやって時間つぶす??」
やや閉口気味に、トゥルースはぼやいた。
「だよなぁ…何もねぇじゃん」
トゥルースの右隣、ガイが同調して後頭部を荒々しいさまで掻く。
「由緒正しき村だ。仕方あるまい」
その後方にいるヴァルは、家屋や村人の様子を見回した。
「俺、探険したいなっ」
三人の会話とは裏腹に、ロイスが晴れやかに言い放つ。
その時―――
「お待ちしておりました、皆様」
前方から明快な声をかけられ、一行が立ち止まって先を見据えた。
そこには、白いローブを身につけた少女がいる。
襟ぐりは肩まで開いていて、細い首筋と鎖骨が際立つ。
「ワタクシは、ナヒロと申します。以後、お見知りおきを」
上品に礼をすると、ナヒロと名乗った少女の栗色の髪が揺れた。
「待っていた…とは??」
微量ながら眉間に皺を走らせ、ヴァルは尋ねる。
ナヒロが、穏やかに笑んだ。
「村の最果てへ、お越しくださいませ。詳しくはそちらで」
すると、ローブの裾をはためかせて踵を返す。
凜とした背中を、一行がしばし眺めていた。
「…で、どーする??」
誰にでもなく、トゥルースは相談を持ちかける。
「悪い方には見えませんでしたが…」
控えめなサラが、遠ざかってゆくナヒロの姿へ視線を送った。
「行ってみよーよっ」
ロイスは意見して、今にも歩き始めようとする。
「待て。お前は少し落ち着け」
ロイスを制したヴァルが、呆れ顔に変わった。
「なんで??行こうよっ」
「あの子、どう考えても怪しいじゃん」
半ば膨れっ面のロイスを、トゥルースはたしなめる。
「でも…」
打って変わったロイスが、しょぼくれて下を向いた。
その頭へ、ヴァルは拳を置く。
「『行くな』とは言ってない。ただ…突っ走ればいいわけでもないだろ」
トゥルースを一度見てから、ロイスに語りかけた。
「わかった。気を付けるっ」
顔を上げ、ロイスは了解する。
そしてヴァルとトゥルースを伴い、歩き出した。
「…ガイさん??どうしました??」
放心状態で立ち尽くしていたガイへ、サラが声をかける。
「あ、ああ。何でもねぇよ。行こうぜっ」
すぐさま反応したガイは、慌ててサラに先を促した。
村を奥へと進むと、炎がちらつく結灯台が両脇をかためる。
道は次第に上り坂に変わり、芝生の地面が果てた場所に二人の人物と人形の石像が待ち構えていた。
向かって手前のナヒロが、一行を迎える。
「来て下さいましたね。…首長の話を、お聞きくださいませ」
導くように、ナヒロはもう一人の人物の背後へ右手を伸べた。