第25話
『ここ、どこだっけ…』
朦朧とする意識の中、ロイスは自分の身体が冷たい床に投げ出されているのを感じていた―――
「…これ…は…」
薄く瞼を開いたロイスが、自分の重い両手首を眺める。
腕輪のような金属を装着させられていた。
「…意外と早く、目が覚めましたね」
含み笑いで、低い男の声が言う。
「そういえば、自己紹介がまだでした」
平然としている声の主を、ロイスは盗み見た。
口髭の、見覚えのある男だ。
「ジャック・マイヤードです。…我が研究室へようこそ」
口髭の男――ジャックが、紳士的に一礼する。
ロイスは、その態度に不気味さを抱いた。
「…な…んで……」
言葉を詰まらせ、ロイスが口を動かす。
「君はとても素晴らしい能力を持っています。ぜひ私の研究材料に、と」
ジャックは、悠長なさまでロイスの顔を見下ろしていた。
「寂しいことなどありませんよ…サーシャ、こちらへ」
ジャックの語りかけと同時に、新たな気配が現れる。
気配は、ロイスの傍らにしゃがみ込んだ。
「サーシャは、君の愛しい少女によく似ているでしょう」
不敵に笑うジャックが告げると、ロイスの頬に毛先が落ちる。
「ロイス…私がずっと一緒にいてあげるわ」
サーシャは、髪を耳にかけ直して囁いた。それからロイスへとさらに近寄り、その首筋を触れる。
温かみのない指先に、ロイスの身体が引きつった。
「…ち…がうっ」
ロイスは力を振り絞り、発声する。
「サラ…は…人を…騙したり…しないっ…」
途切れながらも訴えかけ、サーシャから逃れようと試みた。
「よく見て、ロイス。同じ顔よ??それに…私にはちゃんと姿がある」
サーシャが、ロイスの額を撫でる。
その手を払おうと、ロイスは頭を振った。
「…君は…サラじゃ…ない…」
そう口に出した時、再び首にサーシャの指がかかり、圧力を増す。
「ぐっ…」
呼吸を奪われ、ロイスは顔を歪めた。
「私以外のことを想うなんて…絶対に許さないっ」
サーシャが、激しい怒りを表す。
歯を食いしばったロイスは、サーシャの手首を掴んで抵抗した―――
その頃―――
「ここか…」
ヴァルは、『マイヤード研究所』を観察して呟いた。
「間違いないよ。少しだけど、中からロイスの魔力を感じる」
トゥルースは、建物に向かって両手をかざしている。
「やっぱビンゴかよ…んで、どうするよ」
困惑した表情で、ガイが意見を求めた。
「問題は、どうやって中へ入るかですね」
真剣な眼差しのサラが、ヴァルへと視線を移す。両腕を組み、ヴァルは考え込んだ。
「…連中はあらかじめ、俺らの情報を手に入れていた」
「最初からボクたちを狙ってたってわけだね」
トゥルースが補足すると、ヴァルはわずかに頷き返す。
「でもよぉ。ちゃんとした証拠がなきゃ、相手はしらばっくれんじゃねぇか??」
肩をすくめ、ガイが両方の掌を見せた。
サラとトゥルースは、黙っている。
「だったら、奴らの疑わしきを証明すればいい」
ヴァルが、目線を研究所のドアへ流す。
「…情報を、逆手にとる」
小声に変わったヴァルに、他の三人は注目を向けた。