第24話
「お待たせしました」
サーシャが、銀細工のトレイを運ぶ。その上には 白い陶器のティーポット、ニ組のカップとソーサーが乗っていた。
「う、ううんっ」
そわそわと歩き回っていたロイスは、高い天井に視線を泳がせる。
「なんか、想像してたのとは違うなぁ。研究所っていうから、もっと機械とかあるのかと思ったけど」
ロイスが、骨董家具を見渡した。
「ここは居間なので、父の趣味に整えられてるんです。研究室は、地下にありますよ」
サーシャは、テーブルにティーセット一式を置く。
ポットの注ぎ口から、蒸気が立っていた。
「すぐに用意しますね。よかったら、座ってください」
促されたロイスは、近くの椅子へ着席する。
手早く紅茶を入れ、サーシャがロイスの前にカップを置いた。
「ありがと」
ロイスは、短く礼を述べる。
微笑んだサーシャが、ロイスと対面する位置の席に座った。
「…私に、聞きたいことがあるとおっしゃいましたよね??」
席に座り、サーシャは注ぎたての紅茶をすする。
「あっ…うん。実は…君が、知ってる女の子によく似てて」
ロイスは、ぱっと顔を上げた。
「その子…記憶がないんだ。だから、手掛かりになりそうなことを探してて」
ぽつりぽつりと、ロイスが事情を明かす。
「私について色々なことを知りたい…といったところですね」
サーシャは、納得したように言った。
小さく頷き、ロイスがカップを手に持つ。そして、紅茶を口に含んだ―――瞬間、舌に痺れが襲った。
生理的にむせ、液体を吐き出す。
「…ゆっくり話しましょうか」
霞む視界の先にサーシャの邪悪な笑みを見つけ、ロイスはその場に崩れた。
指から外れたカップの割れる音を、遠くに感じて―――
宿や商店を両脇に臨み、ガイはカーブを描く道路を進んでいた。
「こっちはダメだっ」
反対の道からきたヴァルに向かって、ガイが報せた。
「こっちもだ…が、妙な噂を耳に挟んだ」
ヴァルは、微量ながら訝しげな面持ちに変わる。
「妙な噂??」
「ああ。お前らが訪問したという研究所…半年ほど前から、急に家主が人を寄せ付けなくなったらしい」
ガイの反応に対し、ヴァルが説明を加えた。
「オレらが行った時は、めっちゃ親切だったぞ」
「だから妙…だろ」
鋭くなったヴァルの双眸に、ガイも事態を理解する。
「とにかく、乗り込むぞ」
「ああ!!」
ヴァルの意見に賛同し、ガイは拳をつくって掌で受け止めた。
すると―――
「ヴァル!!ガイ!!」
名を呼ばれる。
振り返る二人に、トゥルースとサラが駆け寄った。
「どーしたんだよっ」
ガイはトゥルースに抱えられるロイスの剣へ目線を移しながら、尋ねた。
「サラがね、『胸騒ぎする』って」
「すみません。嫌な予感がして、どうしても…」
トゥルースに続き、サラが思いを口にする。
その様子を注視していたヴァルは、おもむろに息をついた。
「これから例の研究所へ行く。…堪えられるのか??」
射るような眼差しを、サラに向ける。
意図を察したサラの表情が、徐々に険しさを得てゆく。
「はいっ」
いつになく強く明確に、サラは返事をした。