第22話
シンプルな寝台が向き合う形で四つ並び、部屋の中央部に空間をもたらす。
とある宿の一室にて―――
「なるほど…二人の様子がおかしかったのは、そのせいか」
ヴァルは、ソファーに浅く座っていた。
「オレ、何も言えなくなっちまってよぉ…」
テーブルを挟み、ヴァルの反対の席で、ガイはうなだれた。
「ロイスはその子が、サラの記憶に関わるんじゃないかって思ったんだね」
トゥルースは膝を折って、両腕で抱え込んでいる。
―――陽光が傾き、窓から室内へと差し込む。
長い息を吐き、ヴァルは宙を仰ぎ見た。
「だがサラは、そうは思わなかった。関係性を推察されることで、自分の存在を否定されたように感じた」
そうして、落ち着き払った調子で解釈を論じた。
「どっちの気持ちも、わかるんだよなぁ…」
まるで私事のように、ガイが身体をすぼめる。
室内はしばし、物静かな雰囲気を保持していた―――
「…ところで、当人たちはどうした??」
ヴァルは、誰にでもなく尋ねる。
「ロイスなら、散歩してくるっつって、さっき出てったぜ」
ドアを親指で示し、ガイが答えを投げた。
「サラは隣にいるよ。ボク、もう少ししたら見に行ってみるね」
ガイに引き続くように、トゥルースは提言する。
部屋の片隅に立て掛けられている剣が、月型の紋章を光らせた。
住宅地や港から遠ざかった場所―――
防波堤の端に腰掛け、ロイスは一人で海を眺めていた。
『ここにいる私は何…??』
ロイスの思考を、サラの泣き顔がかすめる。
『俺は…ただ、サラに近づきたいだけなのにっ』
心の内で言葉を紡ぎ、きつく眼を閉じた。
穏やかな波音だけが、耳を通り抜けてゆく。
「俺は…」
ロイスは、ぼんやりと唇を動かしかけた。
その時―――
「どうかしましたか??」
背面から声がする。
やや狼狽しながら、ロイスが振り向いた。
「あ…」
目の前に金髪の少女――サーシャを見つけたロイスは、二の句が継げなくなる。
「先程、いらっしゃった方ですよね??」
長い髪を風に遊ばせ、サーシャが微笑んだ。
ロイスは、こくりと頷く。
「さっきは…突然ごめん」
眉を垂れたロイスが、謝罪を口にした。
サーシャは、首を横に振るう。
「いいんです。来てくださっただけで、嬉しかったですから」
そう告げると、サーシャが目を細めた。
「…あのさ。君に聞きたいことがあるんだ」
ロイスは、真摯な面持ちで切り出す。
一瞬、サーシャの表情がぎこちなさを掠めた。
「…よろしければ、今から研究所へいらっしゃいませんか??」
再び笑みをこぼし、サーシャは申し出る。
「え、でも…俺っ」
「お茶ぐらい出せますし…父も喜びます。ぜひっ」
ロイスの迷いを打ち消すように、サーシャがしきりに勧めた。
「…うん。じゃあ、お邪魔します」
特に拒む理由もないロイスは、結局誘いを受けることとなった―――