第19話
黒く染まった空には、上弦の月と一面の星が輝く―――
一行は、手元が明るむほどの焚火を囲んでいる。
「トゥルースのさぁ、魔法すごかったよね」
ロイスは、一口大のクッキーを頬張った。
「…『バラスト』ってやつ??」
湯気のたつ紅茶をすすり、トゥルースが尋ねる。
「そうそう!!しかもあんなすぐ出せるなんて、すごいねっ」
眼を輝かせて、ロイスはトゥルースを見遣った。
「…お前にはまだ無理だ」
ヴァルが、炎の中へ薪を投げ入れた。
木の枝は、すでに赤熱された木々の上に重なる。
「…詠唱短縮という高等技術だ。魔力を扱って間もない奴には、難しいだろうな」
「エイショータンシュク??」
ヴァルの言葉に、ロイスは小首をかしげた。
「『詠唱短縮』。どんな階級の魔法でも、簡単な呪文で発動させる方法だよ」
単語を強調しながら、トゥルースがロイスに教える。
「魔法のあらゆる知識に長け、なおかつ緻密な魔力操作ができてなせる芸当だ」
ヴァルの瞳は、火を映し込んだままだった。
「…ロイスなら、そのうちできるようになるかもね」
「ホントっ?!」
興奮気味で、ロイスはトゥルースの方へ身を乗り出す。
「うん。ボク、魔力の特性を感じ取れるからわかるんだっ」
そう宣言したのち、トゥルースがガイの方へ向いた。
「な、なんだよっ」
落ち着きを失い、ガイは目線を泳がせている。
「ガイの魔力はね、放出するのには向いてないけど、そのぶん身体を強化できるんだ」
トゥルースが、ガイの二の腕あたりを指した。
「…だからガイさんは、素手でもお強いんですね」
「そーゆーことっ」
サラの発言にトゥルースは相槌をうつ。
「ただ筋肉がつきやすいだけかと思ってたぜ…」
ガイが半ば唖然として、自分の胸板に拳を当てた。
「ロイスの場合、潜在してる魔力は未知数。その分コントロールが難しいだろうけど、使いこなせればかなりの武器になるよ」
トゥルースの説明に対して、ロイスは何度も頷き返す。
「…俺の剣を受け止める程の力も、魔力の影響か」
ヴァルが、トゥルースへ顎をしゃくった。
「そうだよ。ボクは瞬間的に魔力を高めて、腕力を強化したりしてるんだ」
そう語ったトゥルースは、自身の上腕部に手を置いている。
「すげぇ修行したんだろ、おめぇ」
「自分の力に気付いた時、じっとしてられなかっただけだよ。好奇心の延長…でねっ」
まじまじと視線を送るガイに、トゥルースは照れ笑いで答えた。
「それならよぉ、トゥルースに弟子入りでもすりゃあ…」
ロイスへ会話を振ろうとしたガイが、思わず口を止めた。
―――ロイスが、うなだれていたからである。
「寝てます…ね」
すぐ隣のサラが、ロイスの顔を覗き込んで確認した。
ロイスの瞼は完全に落ち、動かない。
「…しょーがねぇヤツだなっ」
「あっ、私ブランケット出しますね」
ガイが立ち上がると、サラは荷物へと手をかけた。
世話を焼く二人に気付く様子もないロイスは、深い眠りを紡いでいた―――