第17話
突如豪風が吹きすさび、渦を形成する―――
「…キミ、ホント怖いね」
風に煽られ、トゥルースは顔を片腕で遮った。
「いっけぇーっ!!」
ロイスが大声を上げ、両手を押し出す。
すると竜巻は、トゥルースめがけて走った―――
「…シールド!!」
瞬時に無数のつぶてが巨大な障壁となり、トゥルースの前を覆う。
竜巻は勢いを変えず進み、双方が激しく衝突した―――
「く…っ」
ロイスが、肩を揺らして息をした。
竜巻と障壁は、互いを削り合っている。
「しっかり…しやがれっ」
ふらつくロイスの背中に、温もりが当たった。
「ガイ!!」
「オレ様が力貸してやるんだからよっ」
ガイは表情を歪めながら、分厚い手の平でロイスを助けた。
「…早くやれ。俺の魔力もそう長く持たん」
オレンジ色の光が、ロイスの全身を取り巻く。
「ヴァル!!」
ロイスの呼吸は、正常に戻っていた。
ヴァルが、かすかに笑む。
「…大丈夫。あなたなら」
そっと、サラの指がロイスの腕に触れた。
ロイスは、静かに頷く。
「…ふっとばせぇーっ!!」
ロイスの気合いで、竜巻は一層うねりを増した。
徐々に、障壁を侵食してゆく。
そして―――
障壁は砕け散り、弾けるように竜巻が相殺された。
辺りを粉塵が舞い、視界を塞ぐ。
「たお…した…??」
ロイスは崩れかけ、サラとガイに支えられた。
曇る塵の中、うっすらと人影が映る。
「…キミたち、すごいね」
衣服をわずかに汚し、トゥルースが姿を現した。
「不死身かよ…っ」
声を絞り出したガイは、愕然としている。
「く…っ」
ヴァルが洋刀を地に突き立て、片膝でしゃがんだ。
トゥルースは、次第にロイスたちへ歩み寄る。
一同の緊張が高まった―――
「ボクの負け…だね」
立ち止まり、トゥルースは俯き加減で告げた。
戦闘から約二時間後―――
「ホントに…ごめんなさいっ」
ロイスたちに向かって、トゥルースが頭を下げている。
「やり方はまずかったけど…俺たちの気を引こうとしただけでしょ??」
ロイスは、トゥルースの肩を優しく叩いた。
「細かい事気にすんなって。怪我も治してくれただしよぉ」
後頭部を掻いて、ガイが意見を述べる。
―――ガイの背中の傷は、跡形もなく消えうせていた。
「ありがとう」
トゥルースが、ほっとしたように息をもらす。
「それより…お前、サラが夢に出てきたって言ったよな」
岩へと座したヴァルの問いかけに、トゥルースが頷く。
「うん。ちょっと前に…あと、黒い髪の女の人が出てきた」
トゥルースの言葉を、ロイスとサラは神妙な面持ちで聞いていた。
「他には??」
「夢見て、目が覚めて…空に、エルス・クローゼがいた」
ヴァルの質問に、トゥルースが惑いつつ答えていった。
「んっ??」
欠伸をして両腕を掲げたガイを筆頭に、ロイスたちの動きは固まる。
「今、なんて…??」
ロイスが、トゥルースに尋ねた。
「だから、空にエルス・クローゼが見えたって…」
トゥルースは何気ない調子で、繰り返す。
「エルス・クローゼ?!」
―――ロイスとガイの声が、見事なまでに重なった。