第15話
「サラ、怖くない??」
先導するロイスは、肩越しに振り向いた。
トリト山脈をくぐるトンネルは、所々に電灯があるものの薄暗く、通路はかろうじてすれ違える程度の狭さだ―――
「うん、平気よ」
ガイを挟んで後ろのサラが、答える。
「オレ、こわーいっ」
「わあっ!!耳元でやめてよっ」
ガイとロイスのやりとりが、トンネル内を反響する。
「やかましい」
縦列する四人の最後尾から、ヴァルの注意がとぶ。
「風呂場みてぇだな。…歌いたくなんねぇ??」
「わかるわかるっ!!」
なおも、ガイとロイスはしゃいでいる。
「っ…」
「あ、あの、出口が見えてきましたよっ」
ヴァルの苛立ちを逸らすかのように、サラが伝えた。
―――わずか左へ折れた先には、まばゆい光が筒状に洩れ出している。
「外だっ」
興奮した様子で、ロイスは言った。
急激に風の吹きつけが強くなり、やがて一行は開けた場所へと脱出した。
「向こう側と全然違うね」
広大な景色を、ロイスは見渡した。
剥き出しの岩肌、雑草や木はまばらに生えている。道らしき道はない。
「オレがディノナバ行くんで通った時は、もっとマシだったけどな…」
ガイが、かすかに寂しさを口にする。
「ここから南東の方向に、港町ブルーオアがある」
ヴァルは、方位磁石と地図を手にしていた。
「南東ってどっち??」
「右だ。とりあえずな」
ヴァルからの指示をうけ、ロイスが先頭で歩き始める。
慌てて、サラはその隣へついた。
「初々しいねぇ」
茶化すような口調で、ガイが二人の背に目線を送る。
「…ひがみか」
「ちげぇよっ」
ヴァルの指摘に、ガイは声を荒げた。
「大人のオレから見てだな…」
「外見はともかく、お前のどこが大人なんだ」
涼しい表情のヴァルが、言ってのけた。
「おめぇ、年下のくせに生意気だぞっ」
「…たかだか2歳だろ」
興奮するガイを尻目に、ヴァルは歩を進める。
「たかだかじゃねぇ!!2歳もだっ」
すたすたと歩くヴァルに、ガイが声を張り上げた。
「…またやってるよ」
一方、前を行くロイスは呆れた表情である。
サラが、苦笑いを浮かべている。
その時―――
「キミたち、旅の人??」
ロイスとサラの右上から、年若い音声が聞こえる。
そびえる岩を見上げると、一人の姿をとらえることができた。
「…よっ、と」
謎の人物が、軽やかに地面へと降り立つ。
ひどく細身の、中性的な容貌である。
「誰…ですか??」
ロイスは、様子を観察して尋ねた。
「ボクは、トゥルースっていうんだっ」
謎の人物――トゥルースが、唇に笑みを浮かべる。
その双眸は、ベージュ色のニット帽で覆い隠されていた―――
「何者だ!!」
ロイスたちの後方、ヴァルが洋刀に手をかける。
「…用件は、簡単」
トゥルースが片足の靴底を擦ると、砂利が音をたてた。
「その子、こっちに渡してもらおうか」
―――トゥルースの顔は、サラへ向けられた。