第14話
ディノナバを出発した一同は、公道にしたがって北へ歩いていた―――
「オレは、三年前に家出してな。武者修行しながら旅して、半年前あそこに落ち着いたってわけよ」
得意げのガイは、胸を張る。
「ガイってあの街の人じゃないんだー」
ロイスは、横に並ぶ男の顔を見上げる。
「…家出じゃなくて、独立だろ」
すぐ後ろのヴァルは、皮肉めいている。
「…家出だぜ??15ん時だったからな」
「えっ??」
ガイの説明に、ロイスは反射的に声を上げた。
「うっそぉ!!ガイって今18ー?!」
「あ、てめぇ!!失礼な反応だな!!」
ロイスの首元に、ガイの片腕が回される。
「25くらいかと思ってたっ!!」
上半身が傾き、ロイスは不自然な体勢になった。
「ガイさん、実は私も…」
「おめぇもかっ」
遠慮がちにサラが申し出ると、ガイの腕は力む。
「悪いが俺もだ」
すかさず、ヴァルが告げた。
「ぐっぐるじ…っ」
ロイスの首は、ますます締め付けられる。
「…くっそぉー!!」
突然吠え、ロイスを解放したガイは歩調を早めた。
「…っ!!おいっ!!」
何事かを察したヴァルが、ガイを追う。
―――脇の緑野から、四足動物が三匹ほど走ってきた。
「おわぁ!!」
事態をのみこみ、ガイは慌てる。
ヴァルが、腰の洋刀を素早く引き抜いた。
「ブルルッ」
茶色の毛並みの馬が、蹄を鳴らして迫る。その瞳には、不気味に輝いている。
ロイスは剣を出し、サラを背に匿った。
「来るぞ!!」
ヴァルの合図で、ガイが右足を一歩ずらして身構える。
「おおおーっ!!」
気合いと共に飛びのき、ガイは体当たりをかわした。
ヴァルとの間を、一瞬にして暴れ馬が疾走する。
「おいおーい!!完璧オレら狙いじゃーんっ」
向き直って威嚇する暴れ馬を見て、ガイは口笛を吹いた。
「やられるなよ…後が面倒だ」
ヴァルは悪態をつき、切っ先で暴れ馬をさす。
「てめぇ!!覚えてろよっ」
吐き捨てたガイへ、一頭の暴れ馬が頭突きを仕掛けくる。
「うおおおーっ!!」
気勢の声を上げ、ガイのグローブに包まれた拳が繰り出される。
鈍い音が、暴れ馬の脳天を殴った。
「グルッ」
暴れ馬は、短い悲鳴で卒倒する。
続けて、残りのニ頭がヴァル、ロイスへと分散して突撃してきた。
「下がって!!」
サラの前方で、ロイスは剣を暴れ馬に構える。
ヴァルが、右足を踏み出した。
「グッルルルーッ!!」
ニ頭の暴れ馬は顔面を、胸を、ロイスとヴァルに斬られ、血を流しながら逃げていく。
サラが、ほっと息をついた。
「おめぇら、やるじゃねぇかっ」
晴れやかに、ガイは称賛を表す。
「ガイだって、すごかったよ」
剣を背に戻し、ロイスが笑った。
ヴァルは、洋刀の血を拭っている。
「まあなっ」
頬を紅潮させて、ガイが照れた。
「…年の功だな」
武器を鞘に収めたヴァルは、早急に歩き始める。
ガイの肩が、ぴくりと動いた。
「てめぇ!!どーゆー意味だ!!待ちやがれっ」
道を進行するヴァルを、ガイは追いかける。
ロイスとサラが、その様子を呆然と見送った。
「…ヴァルさんとガイさんって、意外と仲良いのね」
「うん。俺もそう思う」
二人の視界の先に、ガイのタックルを避けるヴァルの姿があった―――