第12話
『この人、強い』
―――ロイスは、本能的にそう察していた。
アルジェの闘気が、こちらの有利さをまったく感じさせない―――
「答えぬということは…魔族か」
鋭い瞳のアルジェが、腕組みをする。
ロイスたち三人は、硬直したままであった。
「…だったら、どうなる」
ヴァルのこめかみから、汗が落ちる。
緊張感が漂う―――
「我らを味方とするか、敵とするか」
早口で述べアルジェが近寄ったことで、ヴァルは半歩ほど後ずさる。
「ディスト様に従うか、逆らうか」
アルジェの一言に、ヴァルが反応した。
「ディスト…だと??」
その目つきは、鋭さを増す。
「…ディストって、王家滅ぼした奴じゃねぇか??」
思い立ったように、青年は言った。
ヴァルが、静かに頷く。
「ディスト様こそ正義だ」
アルジェの赤毛は、夜風になびく。
「…女王や、多くの兵士を殺してもか!!」
ヴァルの声が荒々しく変わり、刀の柄を握っている。
「貴様らの顔、覚えておこう…次は容赦せん」
冷たく呟いたアルジェは背を向け、外界へと移動した。
その姿が闇に紛れると、次第に存在を失っていく―――
「…おいおい!!やべぇのに目ぇつけられたんじゃねぇか?!」
動揺しきった青年は、己の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。
「てか、何でオレまで!!」
青年が打ちひしがれ、両膝を地面につく。
「…ヴァル、大丈夫??」
怒りに満ちた双眸のヴァルに、ロイスは声をかけた。
「ああ…」
アルジェの消えた夜の景色を見据えたまま、ヴァルが奥歯を噛み締めている。
「…ったくよぉ!!おめぇらと関わると、ロクなことねぇな!!」
青年は皮肉をこめると、来た道へ振り返った。
「あの…」
「もう絶対、オレの前に現れんなよ!!」
腕を伸ばそうとしたロイスに構わず、青年が歩き出した。
「行っちゃった…」
青年の後ろ姿が、ロイスの視界から消える。
「…戻るぞ」
一言だけ口にしたヴァルの表情には、普段の平静さが復していた―――