第11話
「あれは…っ」
サラが何かに驚くと同時に、ロイスとヴァルは窓へ駆けた。
「壁が…壊れてる??」
ロイスが窓から身を乗り出す。
「街の外壁を破壊したということは…襲撃か」
目を細めたヴァルは、冷静沈着に分析した。
大通りの人々はパニックに陥り、逃げ惑う。
「…ヴァル、行こう!!」
剣を背負い、ロイスが鞘とつながるバックルを斜めがけで胸前に止めた。
「ああ」
ヴァルは、洋刀を手にしながら答える。
「サラは危ないから、ここにいて!!」
それだけ言い残し、ロイスが窓枠に足をかけ、難なく飛んだ。
即座に地上への着地をおこなう。
「…一応部屋の鍵、かけておけ。俺らが戻るまで開けるなよ」
「はいっ」
サラの返事を確認し、ヴァルも窓から飛び降りていった。
小雨の中、混乱する人々の雑踏をすりぬけ、ロイスとヴァルは走る―――
「どう思う??」
ロイスが、やや後方にいるヴァルに言葉を投げた。
「普通夜襲ってのは、人が寝静まった時間を狙うものだ。だが、この街は夜こそ人が出歩く。妙だな」
そう言い、ヴァルは思考を続けている。
「人が狙いだとか??」
「だったら、中心街で事を起こすだろう」
ロイスの意見に答えて、ヴァルは訝しげな表情を浮かべた。
「…あそこだっ!!」
ロイスたちの視界の先には、外の景色が突き抜ける。
街を守るの数十メートルの壁が一部分崩れ落ち、重厚なレンガが散乱していた。
「…っ!!おめぇら、何してやがる!!」
二人が怒号のする方へ向くと、男の人影をとらえる。
「あなたは…さっきの?!」
「あー、そうだよ。…ってだから!!おめぇらは何してんだって!!」
ロイスの問いに、青年は焦れる様子を示した。
「異常事態だからな」
ヴァルが、洋刀を軽く掲げる。それに合わせ、ロイスも背中の剣を指さした。
「お前こそ、何しにきた」
「オレも同じだ。…これでも、武道やっててよぉ」
疑問を述べたヴァルに対し、青年は二の腕の筋肉を強調している。
すると―――
「…貴様ら、魔族か」
外界から、低音の女の声がした。
三人は、一斉に顔を向ける。
「えっ??俺…」
「アンタが犯人か」
ロイスの口が開きかけるのを手で制し、ヴァルは壁の陰から現れた人物に尋ねた。
「いかにも」
女が、短い言葉を発す。
―――次第に、黒衣が際立つ長い赤毛の、若い女性が見えてきた。
「我が名はアルジェ…貴様らに問う」
赤毛の女性――アルジェの眼が射るように光った。
「っ!!」
ロイスたちは、咄嗟に身構える。
身体中、電流がめぐる感覚に襲われた。