第10話
ロイスは、神妙な顔つきで話した。
「まじかよ…」
落ち着きを取り戻し、青年が迷彩柄のズボンを手で払う。
それから、その長身で壁に寄り掛かった。
「ここまでくると、偶然じゃなさそうだね」
「ええ」
考え込むロイスに、サラは相槌をうつ。
「…で、あれか。おめぇら運命でも感じちゃってるわけか」
へっ、と嘲る青年が、一行を見渡した。
「何が言いたい」
低い声のヴァルが、青年を睨みつける。
「だからよー、おめぇらの空想にオレを巻き込むなって言ってんだよ」
ため息をもらすと、青年は短髪を指で梳いた。
「空想っていうか…なんか意味ある気がしませんか??」
「知らねぇ。…てかオレ、おめぇらのこと信用してねぇし」
ロイスが働きかけるも、青年は否定的な反応である。
「話にならんな」
「あっ、ヴァル!!」
いらついた様子で吐き捨て歩き出すヴァルを、ロイスは呼び止めようと試みた。
―――しかし、ヴァルの背中は路地を抜け、大通りへと消えてゆく。
「行っちゃった…あの、すみませんでした!!じゃ」
ロイスが青年に詫び、走ってヴァルの後に続いた。
残された青年は、サラに視線を送る。
「…確かに私たちの関係は、貴方にとってくだらないものかもしれません」
サラが、力強い眼差しを青年に返した。
「でも、運命だって偶然だって、今ここに共にいる…それが大切なことだと思います」
一礼し、サラはロイスたちが去った方向を目指した。
雨が、色とりどりのネオンをたたく。
傘を差した人々で、道路は埋め尽くされている。
「うわっ、人ばっか!!」
賑わう街を宿の一室から見下ろし、ロイスが感嘆の声を上げた。
「昼間とは、全然違うのね」
ロイスの傍らで、サラも窓の外を眺める。
二人の後方では、ヴァルがテーブルに地図を広げていた。
「…ねぇ、ヴァル。あの人、きっとそんな悪い人じゃないよ」
振り返り、ロイスは語りかけた。
「何を根拠に」
地図に書き込みをするヴァルが、不機嫌そうな口調で言う。
「理由は…特にないけど。なんとなく」
ロイスは、ヴァルの正面の椅子に座った。
「とにかく俺は、このままなんてやだから」
手を休めようとはしないヴァルに、ロイスが自分の意思をぶつけた。
間をおいて、ヴァルは長い息をつく。
「…勝手にしろ」
ヴァルの了承を悟り、ロイスとサラが互いに微笑み合った。
ズドォーン―――
その瞬間、屋外から地鳴りが聞こえ、建物全体が揺れた。