第9話
ラエック湖に沿って南下したロイス・サラ・ヴァルの三人は、世界一の歓楽街と名高いディノナバに辿り着いた。
昼下がりとあって、メインストリートは閑散としている。
時折路地から、駆け回る子どもの笑い声が響く―――
「早いうちに、宿を決めるぞ」
周囲を見渡し、ヴァルが不快感を表した。
「俺、こーゆーとこ初めてなんだー」
ロイスは、カジノやゲームといった看板に興味をひかれている。
「…やっぱり、この街には入らない方がよかったんでしょうか」
控えめな口調のサラが、身をすぼませた。
「雨が降りそうだからな。仕方ない」
「そーそー!仕方ない!」
ヴァルに便乗したロイスは、言葉とは異なった雰囲気である。
―――黒い雲が、太陽を遮っていた。
「あの先の宿、入ってみるか」
前方を指したヴァルは、ロイスに構わず歩く。
そこへ―――
「なっ、なんだ?!お前!」
突然、男の声が上がる。
細い通路に向くと、逆毛を立てた青年が腰を抜かしてサラを凝視していた。
「この人…サラが」
「見えてるな」
ロイスに付け加える形で、ヴァルは確定的に言った。
「ロイス、騒ぎになる前に連れてくぞ」
「りょうかーい!」
ヴァルとロイスが、青年につかつかと歩み寄る。
「ちょっ…何しやがる!」
両脇を抱えられ、青年は狭い道に引きずられてゆく。
(お気の毒に…)
サラは心の中で同情し、その後を追った。
「あーもー!逃げねぇから、離しやがれっ!」
青年は、ロイスとヴァルを強引に振りほどいた。
「何なんだ、てめぇらは!」
黒いタンクトップの乱れを直して、青年が怒りをしめす。
「すいません。訳があって…」
反射的に、ロイスは謝罪した。
「私の姿、普通の人には見えないんです」
サラが事情を語ると、徐々に青年の表情は、惚けるように変わってゆく。
「オレには、幽霊みてぇに」
「俺らも同じだ。この子のことは、ぼんやりと見えている」
茫然とする青年に、ヴァルが答えた。
「それにコイツ、夢に出てきた…」
青年は、サラを注視している。
ロイス達三人が、眼を見開いた。
「この人も?」
「そのようだな」
驚いたままのロイスに対し、冷静なヴァルは青年と距離を詰める。
「その夢とやらを見た後、空に女の姿が映らなかったか?」
「あっ?…ああ。すげぇ美人が笑ってんのが一瞬な。…てか、なんで知ってやがる」
ヴァルの指摘に、青年が動揺している。
「俺たちも、同じ夢と空見てるんです」
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