異変そして進化へ
出発のときがやってきた。準備は万端。いよいよ僕たち4人の冒険が始まる。
「さあ、行くよ」
サクヤの号令で魔法結界の外、すなわち危険地帯へと足を踏み入れる。深い森の中、木々のわずかな隙間から太陽の光が差し込む。地図は持っているが、自分がどこを歩いているのか確信は持てない。そんな不安の渦巻く中、僕たちは1匹のキツネと出くわした。見た目は普通のキツネだが、目は何かにとりつかれたかのように、凶暴な、赤い目をしていた。僕たちに気づいた瞬間、いきなり跳びかかってきた。僕は慌てて攻撃を放つ。
「フゥー!」
しかし狙いもきっちり定まらないまま討ったせいで、的外れの方向に飛んでいく。リョーヤも呪文を唱えた。
「ドルミール!」
攻撃が敵に当たると、一気に力が抜けたように地面にふわふわと地面に落ちる。よく見てみると眠っていた。
「リョーヤ、今のなに」
僕はなにが起こったかわからなかった。
「今のはドルミール、敵を眠らせる魔法だ。これは俺の特殊系魔法のひとつだぜ。」
「特殊系って他にどんな技が使えるの」
「そうだな。相手を混乱させる魔法、身を隠す魔法、目くらましなんかもあるぜ。それよりサクヤ、そのキツネちょっと調べてくれ」
「わかった」
そういってサクヤはキツネを触り、フレスから何かを当てたりして観察し始めた。
「サクヤは何してるんだ」
「キツネに異常がないか調べてもらってるんだよ。あのキツネ、なんか凶暴ってだけじゃなく、狂ってる感じだっただろ。何かがおかしい気がするんだ」
回復系ってのは医療にも通じているのか。
サクヤは調べ終え、微妙な顔をして戻ってきた。
「まず結果から言うと、あれは異常だわ。いろんなものが普通ではない。でもそれが進化の過程による変化なのか、誰かの意図的なものなのかはよくわからない。これからも気を引き締めたほうがよさそうね」
歩き出そうと前を見ると、ルナが怯えた表情で固まっていた。視線の先をたどると狼の群れがいた。こちらを睨んでいる。慌てて引き返そうとまわりを見るが、時すでに遅し。周囲は狼の大群で埋め尽くされていた。1匹の狼の遠吠えを合図とし、次々と僕たちに向かって襲ってきた。
「リドラ!」
僕とリョーヤはサクヤの援護も受けながら奮闘した。しかし攻撃を防ぐのが精一杯で状況は好転しない。
「……あっ。そういえばルナは」
嫌な予感がしてルナの姿を探すと3匹の狼たちに引きずられ、連れて行かれようとしていた。
「サクヤ、リョーヤ。ルナが」
大声で2人を呼ぶが僕の声は届いていない。僕は全力で突破し、ルナを助けるべく魔法に神経を研ぎ澄ませる。
「ルナを返せー!」
無我夢中で最大の力を込めて攻撃を放つ。
目の前がクラクラする。ルナを……たすけ……なきゃ…。僕はこのまま意識を失った。
「……ユウト」
誰かが僕を呼んでいる。さっきからなんだか癒されてる気分がする。
……はっ。僕は目を覚ました。サクヤが回復魔法を一生懸命僕に与えてくれていた。
「あれっ……。みんな……、何があったの」
僕はまだ起こっている出来事に頭がついていかない。
「あなたが狼の大群を追い払ったのよ。すごかったわ」
サクヤが言った。
「まさか、僕がどうやって」
僕はサクヤの言葉が信じられなかった。そのときのことを思い出そうと頭の中で振り返ってみるがさっぱり思い出せない。
「たぶんユウトはエリュプシオンを使ったんだ。俺は使えないからよくわからないけど」
「何それ」
「広範囲魔法。結構難易度の高い魔法だ。珍しいことだけどたまにあるんだ、魔法への集中が最高点に達したとき限界を超えて自分の習得していない魔法が生まれることが。そしてこれは魔法全体に共通することだけど、魔法を使用することで体力を消耗する。今回のような場合はそれが特に大きい」
それで僕は体力の限界を迎え意識を失ったのか。
「ユウト、助けてくれてありがとう」
ルリの透き通った声が心地よかった。




