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きゅーじゅー、きゅー。
「それじゃあ、ボクはちょっと寝るから」
そう言って、裁縫は寝室に入ってしまった。飄々としているが、裁縫だって姫森以上に憔悴し、疲労しているはずなのだ。
聞いた話では、裁縫は、この一週間を一睡もせず、日本中を探し回ったというのだから。
それ以外にも、いろんな話を聞いた。
水澤は、とりあえずのところは無事であること。
裁縫と姫森は、水澤に助けられて下界に降ろされた、ということ。
それに、そのための交換条件として、水澤があの天空都市で小説を書くことを了承した、ということ。
そして、その全ての話を聞いても――早見は何もしなかった。
何もしなかったとはいっても、生きることをやめたわけではない。食事も摂るし、睡眠も取る。
だが、その程度のこと以外を、何もしなかった。
ただ、一日中リビングのソファに腰掛けて。
視線は茫洋と彷徨い、その目に何も映さず。
死んだように、生きていた。




