きゅーじゅー、はち。
裁縫が空間転移で移動した先は、西京の、水澤のアパートだった。
ジャミングはどうしたのか、とか、いろいろと訊くべきことはあるはずだったが、早見は目を伏せたままで何も言わない。
だから裁縫も何も言わず、ちゃ、と溜めなくリビングへの戸を開けた。
「ただいまお姫ちゃん。やっと見つけてきたよ。はやみんだ――」
戸を開けた先には、確かに姫森がいた。
ソファから立ち上がっていて、来ている服はよれよれで、顔色も酷く悪く、目も今までずっと泣いていたかのように真っ赤だ。
姫森は、裁縫の後ろに茫洋と立っている早見を見ると、手持無沙汰に持っていた本を落としてしまった。
それにすら気づかない様子で、喉を鳴らす。
みるみるうちに涙が両目に盛り上がり、頬を伝う。
一歩、二歩と前に出て、
「――はやみん!」
突進する勢いで、早見に抱き付いた。裁縫は寸前でひらりとかわしているが、早見は身構えなく、どん、と受け止める。
姫森は、泣きじゃくっていた。恥も外聞もない。何か言おうとしているようだが、何ひとつとして言葉にならない。
早見は。
そんな姫森を、呆然と見下ろしているだけだった。




