きゅーじゅー、なな。
蹴られた。
それも無言で。
無言で蹴られた。
通算で三度目。
「………」
だが、目を覚ました早見は、文句を言うでも、跳ね起きるでもなく、ぽかんと目を見開いて空を見上げている。
「………」
――生き、てる。
どうして、という思いがある。どうやって、という疑問がある。
だが、早見のそんな内心の葛藤などに全く頓着なく、
「――いてっ、いた、痛い、ちょ、やめ、痛いっつーの!」
げいげしと容赦なく踏みしだいてくる足を払いのけて、ようやく早見は起き上がった。
「何すんだよ。何で毎回蹴り起こすんだよ。それも何回蹴るんだよ。一発目で起きてるよ」
「いや、なんだかはやみん元気なさそうだったから、元気出させてあげようかと思って。――好きだろ?」
「やめろ。人を踏まれて喜ぶ変態キャラに仕立て上げようとするな。俺はノーマルだ。どれだけ踏まれても痛みしか感じない」
悪びれなく、いつもの無表情で言ってのける裁縫に、早見はうんざりした表情で文句を言う。
ちなみに今度の裁縫は、阿のポーズだった。仁王像のアレだ。
それを、どこか懐かしく感じてしまう自分が嫌だった。
「……ここは、どこだ」
周りを見回して、早見は裁縫に問う。
見たところ、周囲に人の姿はない――どころか、早見を中心にしてぼっこりとクレーターになっているために、どんな場所なのかも判然としない。
「北の国だよ。――全く、とんでもない距離を飛ばされたものだね」
早見に手を差し伸べながら、裁縫はやれやれと言う。
早見は、差し出されたその手を見てややためらっていたが、やがてため息をひとつついてその手を取った。
「射程距離はざっと200キロだった。ここまで飛んできたのは、まあその余波だろうね」
立ち上がる。多少ふらつくが、致命的な怪我などは負っていないようだ。
「……姫森と、水澤さんは」
土を払いながら、早見は低い声で問う。対して裁縫は、まるでためらいなく口を開く。
「お姫ちゃんは、大丈夫だ」
で、
「すーちゃんは、天空都市だ」
早見は、一瞬動きを止めた。ゆっくりと、裁縫を見る。
だが裁縫はそれ以上の説明はせず、
「詳しい話は後だ。今はお姫ちゃんのところに戻ろう。――さすがのボクも少し疲れた」




