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世界は不思議に満ちている  作者: FRIDAY
天空都市
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きゅーじゅー、ろく。

 

 

 落ちている、ということだけはわかった。

 轟々と、全身で風が鳴る。

 どれだけ飛ばされたのかもわからない。だが少なくとも、見える範囲に天空都市は存在しない。影すらも見えない。

 どれくらい気を失っていたのかもわからない。だが、意識を取り戻したところで、何かが変わるわけでもない。

 ただ、落ちていく。


 攻撃された、ということはわかっていた。

 寸前に、咄嗟に周りの三人をできるだけ遠くに全力で吹き飛ばし、自分を守るために結界を張った。

 間に合わない、と思っていた。

 どうやらぎりぎりで間に合っていたらしいが、こうして生きているのは完全に奇跡だ。

 完全に防げてなどいない。着ているものもぼろぼろだし、全身の筋肉が痙攣している。

 一瞬で、根こそぎ持っていかれたのだ。

 このままただ落ちていけば死ぬ。そんなことはわかっているのに、どうすることもできない。

 どうする気も起きない。


 三人は大丈夫だろうか、と思う。裁縫は、水澤は、姫森は。三人とも、あの場に置いてきてしまった。

 だが、すぐにとって返すこともできず、思うだけだ。


 死ぬのかなあ、と思う。辛うじてさっきの攻撃からは生き残ったが、このままでは間違いなく死ぬ。普通に死ぬ。墜落死で死ぬ。


 かっこ悪いなあ、と思う。あれだけかっこつけて宣戦布告した癖に、次の瞬間に一撃でこのザマだ。戦うどころの話ではない、まるで相手にならなかった。


 どうしてこんなことになったのかなあ、と思う。自分は、つい先月まで普通の高校生だったのだ。まあ、魔法使いであるというのはいささか普通ではないかもしれないが、それだって、それまでずっと大した問題にはならなかった。

 自分はただの、ぱっとしない受験生だったはずなのに。


 姫森だってそうだ。

 姫森は、自分から首を突っ込んだんだか巻き込まれたんだか微妙なところはあるものの、本質的に無関係だ。それなのに、命にかかわるような状況にいる。


 どうしてこんなことになったのだろう。

 全くもって、魔法使いだからといっていいことなんかろくにない。

 夜道で変な奴らに絡まれるし、変な少女にアテにされるし、知らなくても生きていけたことをたくさん教えられたし、挙句に世界を敵に回して、この通りに殺されかけるし。


 死ぬのかなあ。


 ぼんやりと、朦朧とした意識の中、思う。


 死ぬのかなあ。


 内心に呟いて、目を閉じる。

 意識がまた、昏く閉じていくのを感じる。


 それでもまあ、別にいいか。

 何かやりたいことがあったわけじゃない。

 将来に目標とか、夢とか、そんなものがあったわけじゃない。

 ここで死ぬのなら、それまでだろう。

 俺は主人公じゃない。

 だから、ここらで退場するのが、ちょうどいいところだろう。

 結局噛ませ犬的ポジションだったわけだが、それだってもう別にどうでもいい。

 全てここで終わるのだ。

 あとは、どこかでひっそりと自分の出番を待っている主人公が何とかしてくれる。

 だからそいつに全部任せて、自分はここで終わりだ。

 そんな終わり方もまた、本当に、笑ってしまうほどに、自分らしい。


 でも。


 でもさ、と内心の誰かが小さく言った。


 でも、本当にそれでいいのか?



 やがて完全に意識を失い、彼は落ちていくままに落ちていった。

 

 


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