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世界は不思議に満ちている  作者: FRIDAY
天空都市
95/141

きゅーじゅー、ご。

 

 

「……何かね」


 “それ”は、裁縫の首を握り潰すのを中断し、自分に声を寄越した人物を見る。

 小説家だ。

 それも驚くべきことに、壁を支えとしながらではあるが、自分の足で立ち上がっていた。

 その小説家は、目に宿した強い力を失わないままに、男に言う。


「その子を離してもらおうか」

「……意図が読めないのだが?」

「深く考える必要のないことだ。私は、その子たちを助けようとしているだけだ」


 立っているだけでも相当に辛いのだろう、脂汗を滴らせながら、小説家は“それ”に笑みまで見せてみせる。


「お前の実験とやらには、私が必要になるのだったな」

「まあ、そうだな」

「ならば取引といこうじゃないか」


 手始めにその子を離せ、と小説家は言う。どうせ、もうこの科学の娘に抵抗する力は残っていない。“それ”は多少乱暴にではあるが、言われたとおりに科学の娘を手放し、床に置いた。


「取引と言うが、君が要求するのはこの科学の娘とあちらの少女だとして、君はわたしに何をもたらすというのかね?」

「そんなものは決まっている。実験への協力だ」


 小説家の足は、がくがくと震えている。だが、決して崩れない。


「お前がその子たちを生きたまま、無事にこの天空都市から下界へ降ろすことを契約するのなら、私はお前の実験に自ら協力しよう」

「成程な。だが、それにわたしが応じなかったらどうするのかね。応じることなく、この二人を処分したら?」

「私はこの場で舌を噛み切って死ぬ」


 “それ”は、小説家の目をまっすぐに見据えた。眼光鋭くこちらを睨みつけてくるその両の瞳を。

 そして悟る。

 この人間は、本気だ。

 そして秤にかける。

 死にかけとはいえ、科学の娘もあちらの少女も反乱因子には違いない。それを下界に解き放ってまで、満たす必要のある好奇心なのか。小説家の存在に、それほどの価値はあるのか。

 思考するまでもなかった。


「――いいだろう」


 “それ”は実に鷹揚に、そう答えた。

 

 


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