きゅーじゅー、よん。
「――成程、バージニングの空間理論か。それでなら、確かにこのジャミング状況下でも空間転移が使用できる。考えたものだ」
心臓を潰されているというのに、男は全く口調を揺らがせることなく平然と、今見たものを口にした。
「それに、これはただの光学兵装ではないな。一見したところではわからないが、なかなか面白い理論を用いている」
大したものだ、と言って、男は自分の胸を貫通させた裁縫を見下ろす。
裁縫は、それが最後の一撃だったのだろう。その場に崩れかけており、男の胸に突き込んだ右腕に支えられてようやく立っている、という状態だ。
「――それだけに、惜しい。君は君たちの中で一番聡いと思っていたのだがな、科学の娘よ。わたしの話を聞いていなかったのか? この身体はあくまでも自動人形であり、“わたし”ではない。これを破壊したところで、“わたし”に対して決定打とはなり得ないのだよ」
淡々と言いながら、男は片腕で、うなだれる裁縫の首を掴むと、軽い勢いで持ち上げた。
引かれるままに裁縫は掲げられ、突き込まれていた腕も、ずる、と抜け落ちる。
その胸の穴はただの空洞と化しているばかりで、血の一滴も流れ出ることはない。
「下手な科学者よりも聡明であったのに――惜しいよ。実に惜しい。どうして君は、“科学の娘”として生まれ出たのだろうね?」
ぐ、と持ち上げられている裁縫は、意識の朦朧とした霞んだ視線で、しかし男を睨み付ける。
「……まあ、構わないさ。君の存在でわたしが困るようなことはないが、ここで生かしておいても仕方のない話だ。わたしにとって、君は必要ではないからね。――さあ、ここが、君の物語の終わりだよ、科学の娘」
ぎりぎりと、裁縫の細い首に男の五指がめり込んでいく。そして、いよいよその握力で首の骨を折られようというそのとき、
「――待て」
凛とした声が、響いた。




