きゅーじゅー、さん。
思いのほかあっけなかったな、と男の姿をした“それ”は考えた。
かつて自分が打ち滅ぼした“彼ら”はそれでももう少し善戦していたものだが。だがやはり、超高出力で一瞬で攻撃されれば、なすすべはない。
所詮は末代、繰り返しだ。
生きているとは到底考えられないが、一応、生死の確認はしなければいけない。死んでいれば灰も残ってはいないだろうし、生きていてもまともな状態なわけがない。確認はすぐに取れるだろう。
事態は次のフェイズに移行する。
「とりあえず、小説家にはここに残ってもらう」
衝撃に立ち直れずにいる面々に、“それ”は淡々と告げる。
「なに、することは君たちが初めから考えていたことと変わらない。ただ、小説を書いてもらおうというだけだ」
「――何が、目的だ」
魔法使いの少年によって生き延びた、科学の娘が呻くように言う。
それに対しても、“それ”は深い理由を答えない。
「先程も言っていただろう――知的好奇心さ。確かに、小説家の持つ発想力というものは興味深い。わたしなどは初めから持ち合わせていないために、ね。だからわたしのもとで小説を書いてもらい、そのときに起こっている現象を観察させてもらう」
命題を立て、実験し、結論する。研究の基本だ。
対して科学の娘は、呼吸をするのも精一杯であろうに、気丈にもまだ言葉を続ける。
「それで発想力というものを理解して、その後はどうする」
「さて、それはまだ考えていないな。それがどのようなものであるかにもよるが、下界の科学者たちの望み通り、科学者にだけ与えてやるのも悪くはない。――ああ、君たちの先行きを慮っているのなら、簡単だ。君と、そちらの少女はこの後間もなく“処分”する。小説家は、実験が終わった後で使い道があるならばそちらに回すが、なければ同じく処分だ」
何の感情も交えず、当たり前のこととして“それ”は答える。もとより感情などは有さない。
“それ”は人間ではないのだから。
「――そんな、ことを」
科学の娘は、何とかして身を起こそうとしながら、囁くような声をもらす。
「うん? 何かね」
“それ”は訊き返す。“それ”の行動原理は好奇心だ。それは、ともすれば気まぐれともいえる。
対して科学の娘は、ゆらり、と顔を上げた。
その目には、未だ力が失われてはおらず、
「そんなことを、そう簡単にされたくは、ないね」
とん、と。
軽い音と、衝撃。
“それ”は、自分の身体を見下ろした。
見れば、左胸が背中まで完全に突き抜けており、それは前から突き込まれた腕によるもので。
遥か遠くに転がっていた科学の娘が、どうやってか一瞬でこの至近まで接近し、こちらの心臓部を貫手で貫通したのだった。




