表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は不思議に満ちている  作者: FRIDAY
天空都市
93/141

きゅーじゅー、さん。

 

 

 思いのほかあっけなかったな、と男の姿をした“それ”は考えた。

 かつて自分が打ち滅ぼした“彼ら”はそれでももう少し善戦していたものだが。だがやはり、超高出力で一瞬で攻撃されれば、なすすべはない。

 所詮は末代、繰り返しだ。

 生きているとは到底考えられないが、一応、生死の確認はしなければいけない。死んでいれば灰も残ってはいないだろうし、生きていてもまともな状態なわけがない。確認はすぐに取れるだろう。

 事態は次のフェイズに移行する。


「とりあえず、小説家にはここに残ってもらう」


 衝撃に立ち直れずにいる面々に、“それ”は淡々と告げる。


「なに、することは君たちが初めから考えていたことと変わらない。ただ、小説を書いてもらおうというだけだ」

「――何が、目的だ」


 魔法使いの少年によって生き延びた、科学の娘が呻くように言う。

 それに対しても、“それ”は深い理由を答えない。


「先程も言っていただろう――知的好奇心さ。確かに、小説家の持つ発想力というものは興味深い。わたしなどは初めから持ち合わせていないために、ね。だからわたしのもとで小説を書いてもらい、そのときに起こっている現象を観察させてもらう」


 命題を立て、実験し、結論する。研究の基本だ。

 対して科学の娘は、呼吸をするのも精一杯であろうに、気丈にもまだ言葉を続ける。


「それで発想力というものを理解して、その後はどうする」

「さて、それはまだ考えていないな。それがどのようなものであるかにもよるが、下界の科学者たちの望み通り、科学者にだけ与えてやるのも悪くはない。――ああ、君たちの先行きを慮っているのなら、簡単だ。君と、そちらの少女はこの後間もなく“処分”する。小説家は、実験が終わった後で使い道があるならばそちらに回すが、なければ同じく処分だ」


 何の感情も交えず、当たり前のこととして“それ”は答える。もとより感情などは有さない。

 “それ”は人間ではないのだから。


「――そんな、ことを」


 科学の娘は、何とかして身を起こそうとしながら、囁くような声をもらす。


「うん? 何かね」


 “それ”は訊き返す。“それ”の行動原理は好奇心だ。それは、ともすれば気まぐれともいえる。

 対して科学の娘は、ゆらり、と顔を上げた。

 その目には、未だ力が失われてはおらず、


「そんなことを、そう簡単にされたくは、ないね」


 とん、と。


 軽い音と、衝撃。


 “それ”は、自分の身体を見下ろした。

 見れば、左胸が背中まで完全に突き抜けており、それは前から突き込まれた腕によるもので。

 遥か遠くに転がっていた科学の娘が、どうやってか一瞬でこの至近まで接近し、こちらの心臓部を貫手で貫通したのだった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ