きゅーじゅー、に。
「――え?」
眼窩に残留する残光が消えるまでに数十秒。ようやく視界を取り戻した姫森が見たのは、突き抜けるような空だった。
そんなわけはない。姫森たちがいたのは、完全に屋内だったのだ。空などが見えるはずがない。
だが、青空は確かにそこにはっきりと見えた。
――壁に開いた、巨大な穴の向こうに。
「――あれ?」
あまりの急展開に認識が追い付かず、姫森の視線は何かを探すかのようにそこらを彷徨う。
何かを、あるいは誰かを。
酷く焦げ臭かった。加えて、穴から轟々と風が吹き込んでいるのにかかわらず、暑い。いや、熱いというのか。
先程まで自分たちが立っていた場所は、しかし元の形をとどめていなかった。
半円状に、ごっそりと抉り取られている。
男が立っているところから続くそのクレーターは、まっすぐに直進し、壁の大穴まで続いている。
超高温度の何かが、床を削り、壁をぶち抜いて走り抜けた痕跡だ。
その灼熱を物語るかのように、直接クレーターに触れていない周囲の床までもが、どろどろに溶けかけている有様だ。
「――咄嗟の判断としては、成程悪くない。他の三人を背に庇うよりは、射線からよけた方が確かに賢明だ」
もっとも、そこまでのようだが、とひとりこの場に立っている男はつぶやく。
姫森だけでなく、水澤も裁縫も無事だ。ずっと向こうにではあるが、姫森と同じように床に伏している。意識もあるようで、少しずつ起き上がりかけているようだったが、
「――はやみん?」
無意識に、姫森は囁くようにその名を口にする。
はやみん言うな、と。
いつもならすかさず返ってくる、そんな言葉は、返らない。
「はやみん、どこ――?」
彼の姿だけが、この場のどこにも見えなかった。




